短篇

□箸
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今日の夕餉のメニューは秋刀魚で良い匂いが鼻腔をくすぐる。みんなでいただきますの挨拶をして食べていたのだが望美はふと隣りに座っている九郎のお膳に目をやった。

「…どうしたんだ、俺のお膳なんか見つめて?」

その視線に気付いた九郎は声を掛けた。

「いつも思うけど、九郎さんって箸遣いも綺麗だけど魚を食べるのも上手ですよね!」
「………そんなところ褒めるようなものでもないだろ?」

「私、箸持つのに変な癖がついちゃっててきちんと持てないから良いなぁって。それに小骨の多い魚は苦手で……。」

ほらっといった感じで秋刀魚の乗っている皿を九郎に見せると秋刀魚の身はグチャグチャになっていた。

「…貸してみろ、食べやすいように分けてやる。」
「えっ?じゃぁ、お言葉に甘えてお願いします。」

呆れはしたものの自分の箸遣いや食べ方が綺麗だと褒められたのに我ながら単純だなと思いながらも気分が良かった。それで気紛れに身を分けてやることにしたのだが、それが人の目にどんな風に映るかなど気にしなかったのがまずかった。

「ここをこうすれば骨と身が綺麗に取れる。」


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