花束
□きっかけは突然で
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「…おや、どうしたんだろうね。ちょっと牛車を止めてくれないかい」
知人の家からの帰りに友雅は道端にしゃがみ込む女人を見つけた。
「大丈夫かい?どこか具合でも悪いのかい?」
あまり人には関心を示さない友雅だが、女性が困っているのであれば放って置く事ができず声を掛けてしまう。
「あ、いえ…子猫が怪我をしていたので」
顔を上げて身分違いな人物に声を失った。
「子猫?」
「いえ、何でもありません」
急に態度が変わった彼女から子猫を抱き上げる。
どうやら子猫は前足に怪我を負っているらしく、布の切れ端で止血をしている。
その布は彼女の物らしく、袖口が破れていた。
「いけません、そんな事をしてはお着物が」
慌てて子猫を受け取ろうとする彼女を、左手で制止して
「気にする事はないよ。この子猫は君のなのかな?」
優しい笑みで尋ねる。
「い、いえ」
「ならこの子猫は私が貰って処置しても問題はないね?」
「ですが」
「では、一つだけ」
「?」
そんな事をさせる訳にはいかないとオドオドする彼女に一つ提案をする。
「お礼替わりに貴女の名前を教えて頂けるかな?」
その提案に瞬きを何度かして
「愛理紗…です」
と小さく答えれば、友雅は
「愛理紗、だね」
満足そうな笑みを零して牛車に戻って行った。
愛理紗は暫く茫然と遠ざかる牛車を眺めていたのだった。