短編
□好きなんです!
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俺の傍には、変なやつがいる。
初めて会った時からそうだったが、最近はさらにエスカレートしている気がする。それでも俺があいつを鬱陶しいとか面倒だとか思わないのは、少なからずあいつに惹かれているからなんだろう。
『豪炎寺くーんっ!』
ほら、また来た。
こうして呼ばれるのも最初こそは戸惑ったものの、今では心地よい気すらする。慣れとは恐ろしいものだ。
苗字の声に立ち止まれば、後ろからドンッと俺の背中にぶつかる彼女。
俺がいきなり止まったから走ってきた勢いでぶつかってしまったらしい。
『いたたた…』
顔だけ振り向くと、俺の背中で顔面を打ってしまったらしい苗字は自分の鼻を手で押さえていた。
そんな彼女と目が合う。
「…大丈夫か?」
『えへへ…大丈夫だよっ豪炎寺くんにも抱きついちゃったし、今日はラッキーだなぁ!』
「まったく…」
俺が溜め息をつきながらそう言うと、苗字はさりげなく俺の腹に手をまわし、バッ!と顔をあげて俺を見つめた。ぶつけた鼻が少し赤い。
『豪炎寺くんっ!』
「…なんだ。」
『今日もカッコいいね!大好きです!』
また訳のわからない事を…と、俺は本日2度目の溜め息をこぼした。
そして体ごと苗字と向き合う。
「あのな、苗字。」
「はいっ!」
こいつはいつも返事だけは無駄に良いな。聞いていて気分はいいが。
「男にそういう事を簡単に言うな。すぐ勘違いする奴らだっているんだからな。」
俺がそう言うと、きょとん、とした表情をする苗字。
『ひどいなぁ、豪炎寺くん。』
苗字は少し困ったような笑顔をしてそう言うと、顔を俯かせる。
『私はね、誰にでもこんな事言わないよ。』
今までとは違う、真剣な色を持った彼女の声に首をかしげる。何か悪い事を言ってしまったかもしれない。
そんな事を考えて不安な気持ちになった。いまだに俯いたままの苗字を見つめていると、苗字は突然顔をあげた。
そして、ちゅ、となんとも可愛らしい音をたてて俺の頬に口付けを落とす。
俺はいきなりの事に驚き、苗字の唇が触れた頬を押さえて目を見開いた。
俺の頬にキスをした張本人は、目の前で真っ赤な顔をしている。
『…本気だから…』
「え…」
ボソリと呟かれた言葉に、聞き取れなかった訳でもないのに聞き返した。
『だからっ、私は豪炎寺くんが好きで好きで堪らないの!!それくらい大好きなの!!』
俺の制服を小さく握って好きを連呼する苗字。
というかここ、廊下だぞ…
頭の中では冷静にそんな事を考えていたが、体はそこまで落ち着いてはいられなかったらしい。
『え、わ…!』
気付けば俺は苗字の体に手をまわし、彼女を抱きしめていた。
『え、あああの、豪炎寺くん…!?』
俺の腕の中でわたわたと慌てている苗字。くそ、可愛いな。なんて柄にもない事を思ってしまう。
『豪炎寺くん、あの、これは…!!』
「ちょっと黙れ。」
そう言って苗字の唇を自分のそれで塞いだ。彼女は驚いたように体を強張らせたが、次第に体の力が抜け、おずおずと俺の背中に手をまわしてくる。
しばらくして唇を離すと、苗字は真っ赤な顔で目をわずかに潤ませていた。
「…いつもは積極的なのに、こういうのには弱いんだな。」
『な…っていうか、今のは…!』
「仕返しだ、名前。」
俺は名前の耳元でそう言うと、彼女に背を向けてゆっくりと歩き出す。
『な、名前っ…!』
後ろからそんな声が聞こえたので、振り返らずに手をあげたと同時に口角が上がるのを感じた。
好きなんです!
(あぁぁもうカッコいい…!)
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さおり様へ相互記念小説
豪炎寺が好きすぎる夢主ちゃん、
どうだったでしょうか!?
喜んでいただけたら嬉しいです(>_<)
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