長編

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あれから1年がたって、私たちは2年生になった。
だからといって何かが変わったかと訊かれれば、答えはNOなんだけど。


1年生の時と同じように、学校へ行って授業を受けて部活をする。
前と同じ日常を過ごしているはずなのに、私の生活は大きく変わった気がした。…彼が、私の前から姿を消した時から。


豪炎寺がいない。たったそれだけで、私の見る世界は色あせてしまったように感じる。もちろん、学校には友達もいて、大好きなサッカーを身近に感じていられてすごく楽しいし、毎日が充実していると思う。でも、私はそんな日々の中に、どこか物足りなさを感じていた。


今年もフットボールフロンティアが開催され、新キャプテンの武方勝を筆頭とした木戸川サッカー部は去年と同じように順調に地区大会を勝ち抜き、もうすぐ始まる全国大会に出場することが決まった。そんな時期に思い出すのは、やっぱり去年の決勝戦と彼の事で。あれから1年たった今でもあの日の事は鮮明に覚えている。胸が、締め付けられるほどに。


今も、フィールドで駆け回っている部員たちを見ていて無意識に彼の姿を思い出してしまう。
それだけ、好きなんだと思う。彼と離れて1年が経つけれど、その想いは日に日に大きくなっていくばかりで。思えば、ずっと好きだった。初恋だった。…こんな事、今さら気付いても遅いと分かっていても、抑えられなかった。連絡を取ろうにも、彼は電話番号もアドレスも変更しているし、住所も分からない。もし知っていても連絡する勇気はなかったかもしれないとも思うけど。


物思いにふけっていると、休憩時間に入ったのか、部員たちがこっちに向かってくる。
皆にドリンクとタオルを渡し、それぞれ休憩する部員たちをぼんやりと見つめていると、いつの間にいたのか、隣から声がした。



「…お前、また思い出してんの?みたいな。」



『…勝…』




勝はドリンクを飲みながらちらりと私を見た。(サングラスのせいでよくわからないけど。)




『…もうすぐ全国大会だと思ったら、ついね…』



「…つーか、もう忘れちまえば?みたいな。」




私は、勝の言葉に俯いた。



『…忘れられるなら、もうとっくに忘れてるよ。…勝もそうでしょ?』



「…まぁ、な…」




やっぱり勝も忘れられないらしい。そりゃあ、1年前の決勝の後もあれだけ豪炎寺、豪炎寺って言ってたし、どうしても意識してしまうんだろう。




「…でも、」



『ん?』



「今年は、優勝する。あいつがいなくても、俺たちは強いってことを証明してみせる。」



『…うん』




そして、勝や皆は練習に戻っていった。それを見ながら唇に指をあてる。豪炎寺と最後に会ったときに触れた彼の唇と掴まれた腕の熱は、今でも忘れてはいない。




『…いい加減、進まなきゃいけないのかな…』




いつまでもうじうじしているのも嫌だし、届かないのに想い続けるのは辛いから。
想っているのも想わないのも苦しいなら、私は前に進むためにこの気持ちに終止符を打ちたい。

頭の中に、彼のサッカーをする姿が浮かんだ。
それを振り切るように澄んだ空を見上げる。




『…好きだったよ、豪炎寺…』




私の呟きは、青すぎる空に吸い込まれていった。







本当の気持ちは胸にしまう

(あなたの背中を追いかけたい、けど)

(進みたいから)






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