長編
□06
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「…いい加減、遅くないか?豪炎寺のやつ…」
『もうすぐ出発しちゃうよ…』
出発時間になっても豪炎寺は姿を見せない。
携帯に電話をかけても、出る気配はなかった。
二階堂監督もどうしたもんかと首をひねる。
そろそろ出発しないと、会場で練習する時間がなくなってしまう。でも豪炎寺が…
「監督、そろそろ…」
キャプテンが監督に出発を促す。そして、部員たちもそれに頷いた。
「仕方ない。とりあえず会場へ向かおう。向こうで豪炎寺と合流できるかもしれないしな。」
そして、皆はバスに乗り込む。
「山崎?」
1人だけバスに乗ろうとしない私に、監督は声をかけた。
『すみません、二階堂監督。私残ります!もしかしたら出発してから来るかもしれませんし…』
「でも…」
『試合が始まるまでには行きます!』
「…よし、わかった。頼んだぞ!」
『はいっ!』
そうして皆は出発していった。それを見届けてから、携帯を開く。何度電話してもダメだったけど、もしかしたら…と、淡い期待を抱きながら発信ボタンを押す。
プルルル…
呼び出し音が耳に響く。出て…!という私の願いもむなしく、その呼び出し音が途切れたかと思うと、ただいま電話に出ることができません…と無機質な声が聞こえた。
電話もメールも返事はない。もしかすると、来る途中で何かあったのかもしれない…と思い、背筋が冷える。
『…だけど』
事故とかだったら普通学校とか監督に連絡があるはず…そう自分に言い聞かせ、ひたすら彼を待つ。
そして気が付くと、もう試合が始まる30分ほど前だった。これ以上は待っていられない。試合までに行くと監督に言ったんだから…
私はため息を1つ漏らすと、後ろ髪ひかれる思いで学校をあとにした。
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試合開始直前で会場に入り、木戸川のベンチに到着する。電車を降りてからダッシュでここまで来た私の息はあがりまくっている。そんな私に、皆が駆け寄る。
「豪炎寺は…!?」
キャプテンが私に尋ねる。他のメンバーも真剣な顔で私を見つめているのが分かった。
『はぁ、はっ…!』
息があがっている私は、とても話せる状態ではないのでただ首を横に振る。
「…そう、か」
皆は肩を落とす。それでもお構いなしに試合は始まるもので、審判が選手に整列を促した。
「…よし、皆!ついに決勝戦だ。気合い入れていけよ!」
二階堂監督は大きな声でそう言った。その声で皆の顔に力が戻り、はいっ!と大きな返事をしてフィールドへ駆けていく。
私は、そんな皆を見ながら無意識に両手を合わせ、指を組んだ。
『(豪炎寺…)』
私の想いが届くことはなく、豪炎寺は最後まで決勝戦に姿を現すことはなかった。
願い
どうして?
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