長編

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初恋は叶わないと言うけど、それはきっと嘘だと思う。そればかりはお互いの気持ち次第だし、叶う場合も叶わない場合もある。でも、お互いが相手のことを好きになるのは奇跡だとも思う。
つまり何が言いたいかというと、初恋は自分たち次第で叶うことも叶わないこともあるということ。それと同時に、叶うことは奇跡だということである。



『本当に、みんなと一緒に帰らなくてよかったの?』


「あぁ。」



私の目の前には、ジャージ姿の豪炎寺。
閉会式を終えた選手たちは一度ロッカールームに戻り、彼以外は皆もう帰ってしまった。



『でも、打ち上げとか…』


「打ち上げは改めてまた今度するらしい。それに、俺は早くお前と2人になりたかった。」



豪炎寺はふわりと笑いながらそう言うと、自然すぎるくらいの動作で私の手をさらう。顔が熱い。どうしてそんなにさらっとこんな事ができるんだろう。



「ほら、帰るぞ。」



繋いだ手を優しく引っ張られ、私たちは2人で歩き始める。本当ならチームのみんなと一緒に雷門のバスで帰るはずだった彼は1人だけ別に帰ることになったので、電車で帰るために2人で駅を目指す。

歩いて5分くらいで駅に到着し、切符を買って、人がちらほらとしかいないホームで電車を待つ。

豪炎寺はやっぱり無言で、私たちの周りには静かな空気が流れている。
少しくすぐったいような気もするけど、静かでおだやかなこの時間が、ずっと続いて欲しいと思う。


結局私たちが一言も話さないうちに向こうから電車が来た。
すると、豪炎寺が不意に私の目の前に移動してくる。どうしたのだろう、と考える間もなく、彼のジャージが電車による強い風でなびいた。
もしかして、風避けしてくれたのだろうか。



『…ありがとう』


「ん」



そっけないけど、さりげない優しさに心が温かくなった。

電車に乗り込むと、やっぱり中途半端な時間だからか中に人はほとんどいなくて、私たちは適当な座席に並んで座った。



「…山崎、」


『ん?』


「色々…すまなかった。」


何を今さら、と笑って、繋いだ手にきゅっと力を入れる。



「もう、離れない。」


『…うん。』



真剣な目で見つめられ、照れ臭くなって視線を逸らそうとするものの、それは叶わなかった。

豪炎寺は繋いでいない方の手で私の顎を固定すると、そのまま唇を重ねる。
いきなりの事で頭が追い付かない。

やっと状況を整理したときには、もう唇は離れていた。



「…間抜けな顔だな。」


『だ、だってびっくりして…!』



そもそも豪炎寺が悪いんじゃないかと思ったけど、混乱していてうまく言葉にならなかった。



「なぁ、愛美。」


『!』



名前で呼ばれたことに驚いて勢いよく豪炎寺を見ると、彼はフッと笑って固まる私の耳元で口を開いた。



「好きだ。」






初恋は、キミと。



おわり。

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