長編
□16
1ページ/2ページ
初恋は叶わないと言うけど、それはきっと嘘だと思う。そればかりはお互いの気持ち次第だし、叶う場合も叶わない場合もある。でも、お互いが相手のことを好きになるのは奇跡だとも思う。
つまり何が言いたいかというと、初恋は自分たち次第で叶うことも叶わないこともあるということ。それと同時に、叶うことは奇跡だということである。
『本当に、みんなと一緒に帰らなくてよかったの?』
「あぁ。」
私の目の前には、ジャージ姿の豪炎寺。
閉会式を終えた選手たちは一度ロッカールームに戻り、彼以外は皆もう帰ってしまった。
『でも、打ち上げとか…』
「打ち上げは改めてまた今度するらしい。それに、俺は早くお前と2人になりたかった。」
豪炎寺はふわりと笑いながらそう言うと、自然すぎるくらいの動作で私の手をさらう。顔が熱い。どうしてそんなにさらっとこんな事ができるんだろう。
「ほら、帰るぞ。」
繋いだ手を優しく引っ張られ、私たちは2人で歩き始める。本当ならチームのみんなと一緒に雷門のバスで帰るはずだった彼は1人だけ別に帰ることになったので、電車で帰るために2人で駅を目指す。
歩いて5分くらいで駅に到着し、切符を買って、人がちらほらとしかいないホームで電車を待つ。
豪炎寺はやっぱり無言で、私たちの周りには静かな空気が流れている。
少しくすぐったいような気もするけど、静かでおだやかなこの時間が、ずっと続いて欲しいと思う。
結局私たちが一言も話さないうちに向こうから電車が来た。
すると、豪炎寺が不意に私の目の前に移動してくる。どうしたのだろう、と考える間もなく、彼のジャージが電車による強い風でなびいた。
もしかして、風避けしてくれたのだろうか。
『…ありがとう』
「ん」
そっけないけど、さりげない優しさに心が温かくなった。
電車に乗り込むと、やっぱり中途半端な時間だからか中に人はほとんどいなくて、私たちは適当な座席に並んで座った。
「…山崎、」
『ん?』
「色々…すまなかった。」
何を今さら、と笑って、繋いだ手にきゅっと力を入れる。
「もう、離れない。」
『…うん。』
真剣な目で見つめられ、照れ臭くなって視線を逸らそうとするものの、それは叶わなかった。
豪炎寺は繋いでいない方の手で私の顎を固定すると、そのまま唇を重ねる。
いきなりの事で頭が追い付かない。
やっと状況を整理したときには、もう唇は離れていた。
「…間抜けな顔だな。」
『だ、だってびっくりして…!』
そもそも豪炎寺が悪いんじゃないかと思ったけど、混乱していてうまく言葉にならなかった。
「なぁ、愛美。」
『!』
名前で呼ばれたことに驚いて勢いよく豪炎寺を見ると、彼はフッと笑って固まる私の耳元で口を開いた。
「好きだ。」
初恋は、キミと。
おわり。
次のページであとがきです
.