短編
□ずっと好きでした
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久しぶりに会ったあの子は、なんだか泣きそうな顔をしていた。
中学の頃バスケを通じて仲良くなった彼女。オレがモデルだとかそんな事は気にもとめず、ありのままのオレと向き合ってくれる数少ない女の子。中学を卒業してからは別々の高校に進学したため会うこともなくなった。今頃どうしているだろうか、と考えていた矢先、ばったりと再会。久しぶりに会えて嬉しいと思う反面、その彼女らしくない顔に違和感を覚えた。
「…名前っち?」
『黄瀬、くん…』
彼女はオレの顔を見るなり目に涙を浮かべ、今にも泣きそうだ。それを見かねて再び声をかけようと口を開きかけたが、それは喉の奥に消えてしまった。
『後ろ向いてくれないかな…』
「え?…こうっスか?」
名前っちの言う通りに、彼女に背中を向けるとともに感じた温もり。それは、彼女がオレの背中に抱きついた事によるものだった。
「名前っち…?」
『ごめんね…っ今だけ、少しだけだから…っ』
そう言う彼女の声は涙声で、震えていた。何があったのかはあえて訊かないことにしよう。オレに背中を向けさせたのも、きっと泣き顔を見せないための彼女なりの強がりなんだと思う。
「…いいっスよ、好きなだけ。」
オレがそう言うと、時々小さな嗚咽が聞こえてくる。どうすればいいか分からなくて、とりあえず自分の腹部に回された小さな手を握った。
『…部活で、ちょっとイヤなことがあってね…っ我慢してたけど、黄瀬くんの顔見たら、なんか…っ』
彼女が触れる背中が熱い。きっとオレは前から彼女が好きだった。でも、いつも一生懸命バスケをするこの子を困らせたくなくて、この心地よい関係が崩れるのが怖くて、目を背けていた。…でも、今はそんなこと思わない。オレがその涙を拭ってあげたいし、彼女が辛いときには傍にいてあげたいし、傍にいて欲しい。彼女が、好きだ。
そう思ったオレは突然振り向いた。
それに驚いた彼女は泣き顔を見せないように俯いている。
「泣き顔を見せずに済む方法が、もういっこあるんスよ。」
『え…』
ぐす、と鼻を鳴らす名前っち。オレは彼女を正面から抱き締めた。
『黄瀬くっ…!』
「こっちの方が、安心できるっしょ?」
『…ん、』
彼女の手がオレの背中に回される。ドサッと彼女の鞄が地面に落ちた音が聞こえた。
「…こんな時に言うのは卑怯かもっスけど、」
ずっと好きでした
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