GO!
□イカリソウを君へ
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「好きだよ」
心臓が、ドクンと嫌な音をたてた。その言葉が私に向けられたものだったらどんなによかっただろう。
放課後、忘れ物に気付いた私は教室まで引き返した。すると、教室には人がいたようで、私が教室の扉を開けようとした瞬間に聞こえてきたのが冒頭の声だった。
ショックだった。だって、さっきの声は紛れもなく私が恋焦がれている霧野くんのものだったのだから。
頭の中にさっきの言葉が響く。きっと、言われた子はすごくかわいくて、素敵な子なんだろうな。そう思うと、私の目からは涙が溢れてきた。
慌ててその場を離れる。パタパタと私の上履きが床に触れる音が静かな廊下に響いた。もしかしたら教室にいる2人に気付かれたかも。ごめんなさい、邪魔するつもりはないんです。
心の中で謝りながらようやく靴箱に到着し、上がった息も整えないまま靴を履きかえる。そして再び走り出そうとした私の足は、目の前の光景を見てピタリと止まった。
『…うそ…』
空はどんより暗く、さっきまでは降っていなかった雨がザアザアと音をたてて、バケツをひっくり返したような勢いで降っていた。
生憎、傘なんて持ってきていない。なんてついてない日なんだろう。告白してもいないのに失恋して、そのあげく雨に降られて。
『もう、最悪…っ!』
溢れる涙を自分の腕で拭う。それでも涙は止まってくれなくて、今の雨のように勢いを増していくばかりだった。
『…よし…』
泣くのは帰ってからにしよう、と俯いていた顔を上げる。雨が止むのを待っていたら帰るのがいつになるか分からないし、霧野くんたちに遭遇してしまうかもしれない。
そう、走り出そうと構えた瞬間だった。
ぐっ
『っ!』
私の腕は後ろから伸びてきた誰かの手に掴まれた。恐る恐る後ろを向くと、そこには私がさっき失恋した霧野くんが少し息を弾ませて立っていた。
『き、霧野くん…』
「…この雨の中を走って帰るつもり…ってお前、泣いて…」
私は、泣き顔を見られたくなくて、早く霧野くんから離れたくてとりあえず俯いた。
『…ほっといて。』
「こんな状態のお前をほっとけない。」
こんな時まで優しい彼に、再び涙が溢れるのが分かった。
『本当に、いいから…っ早く行かないと彼女が怒る…』
涙声でそう言うと、霧野くんはは?、と不思議そうな声を発した。
「ちょっと待て。彼女って誰の…」
『…霧野くん』
「はぁ…?俺、彼女なんて…」
『ウソつき。だってさっき教室で…』
そう言って霧野くんの顔をチラリとみると、彼は顔を赤くしていた。あぁ、やっぱり彼女いるんじゃん…
「ち、ちがう!」
『…え…』
突然大きな声で否定する霧野くん。何が違うというのだろう。そう思って霧野くんを見上げると、彼は赤い顔のまま口を開く。
「俺は、お前が好きで…それで、神童に相談してたんだ。そしたらさっきあいつが苗字のこと好きかって訊いてきたから…」
『え…じゃあ、私が聞いた好きっていうのは…』
「あぁ、質問に答えるために言ったんだ…」
な、なんだ。そういうことだったんだ…じゃあ全部私の勘違いで…
『よ、よかった…!』
安心してまた涙が出てくる。それを見た霧野くんはアタフタと慌て始める。
「な、泣くなって…!」
『だって…!』
「…まったく」
霧野くんはそう言うと、私をふわりと抱きしめた。可愛い顔してるのに、中身は男前だな…とか、霧野くんの体温が心地いい…とか思ってしまう。
『霧野くん…』
「あのさ、お前さっきのちゃんと聞いてたか?」
『え…』
私は、何のことか分からずに首をかしげる。
「だから、俺はお前が好きだって…!」
霧野くんの言葉でさっき言われた事をやっと思い出した。
うわぁ、なんか恥ずかしい。でも、幸せかもしれない。好きな人にこんな風に抱きしめられて好きだって言ってもらえて…私は改めて、霧野くんが好きだなぁと思う。
『霧野くん…』
「……」
『わ、私も霧野くんが好き…!』
言ってから顔が熱くなるのを感じた。は、恥ずかしい…!と一人で悶えていると、不意に体が離され、霧野くんの真剣な表情をした顔が近づいてくる。綺麗なブルーの瞳は、まっすぐに私を見つめていた。私は目を閉じて、彼の口付けを待った。
イカリソウを君へ
(苗字…!?)
(行って来いよ、霧野)
(あ、あぁ…!)
(まったく、世話のかかる…)
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紗稀さまからのキリリクでした!
なんかありきたりな感じで
すみません…(´;ω;`)
ちなみに、イカリソウの花言葉は
「君を離さない」です。
言われてみたいですね。
リクエストありがとうございました!
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