短編

□初期症状
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部活後に自主連を終えて部室の扉を開けると、そこにはボールを抱えたまま床に座りこみ、すやすやと寝息をたてている苗字の姿があった。

そいつの周りにボールが数個転がっている事と手に握られたものから察するに、ボールを磨いているうちに寝てしまったのだろう。
なんて無防備というかマイペースな奴なんだ。



「はぁ、…ったく」



オレも疲れているんだ。早く帰って休みたい。しかしさすがにこいつをこのまま放って帰るわけにもいかない。面倒だが起こしてやるか、とそいつの目の前にしゃがみこむと、その寝顔の幸せそうなこと。起こすのが申し訳ないくらいに。オレがこんな事を考えるなんてらしくないか、とため息をついてからその細い肩に手を置き、少し揺さぶる。



「おい、起きろ。鍵閉めっぞ。」
『んー…』



んー、じゃねぇよ早く起きろ轢くぞ、といつもの調子で小さく舌打ちをした。その直後、苗字はゆっくりと目蓋を開きその瞳にオレを映す。



「起きたか?」
『…みやじ、くん?』



まだ眠そうな掠れた声でオレの名前を呼ぶと、ふにゃりと緩く笑った苗字に不覚にもときめいた。なんだお前ふざけんな。
なんて勝手にテンパっていると、再び眠りにつく苗字。



「は、お前ふざけんな轢くぞ!起きろ!」



マイペースにも程があるだろ、こいつ。呆れ果てて思わず笑ってしまった。着替えが終わるまでは起こさないでおくか、と柄にもない事を考えて鳥肌がたった。





動悸の加速は初期症状

高鳴る鼓動に気付かないふりをした。

(…こんなの、認めねぇ)



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