短編

□油断大敵
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休日だというのに学校の体育館まで足を運んだ。今日はうちのバスケ部と他校の練習試合らしい。特に予定もなかったので彼に言われた通り観に来てみた。スポーツ観戦は好きだけど、バスケといえばまだ日本ではそれほどメジャーなスポーツではないようでテレビでも滅多に見ないので、私にとってこの試合を観るという事は色んな意味で特別。

選手達はもうコートに整列していて、ちょうど今から始まるところらしい。よかった、間に合った。
どうせなら上からの方が観やすいかと思って、2階のギャラリーに混ざって試合を観戦する。
いつも学校で笑顔を振りまいている彼は、これまでに見たことがないくらい真剣な顔でボールを追っていて驚いた。いや、バスケとはそういうスポーツなんだけど。その金髪以上に輝く汗を流している彼は、やけに普段とのギャップが目立つな、と。

バスケの試合時間は短い。サッカーなどと比べると圧倒的に早く終わる。
試合が終わって得点板を見ると、そのスコアは大差でうちの勝ちだ。
やっぱりIH常連なだけあるなぁと今さらだけど感心した。
ベンチの方を見ると、肩にタオルをかけた涼太はキョロキョロと周りを見渡していた。私が視線を送るとこちらに気が付いた彼は大きく手を振ってくる。
それに笑顔を返してから下に降りると、駆け寄ってきたのはまぁ予想通り涼太で。



「来てくれたんスねー!」
『そっちが誘ったんでしょー』
「まぁ、そうなんスけど。ね、今日のオレどうだった?」



期待をこめた眼差しで見つめられる。さっきまでの怖いくらい真剣な顔はどこに行ったんだ。本当に、試合の時とは別人。



『…かっこよすぎてむしろうざい。』
「なにそれ!?」



しょぼんと眉を下げる涼太。うざいと言われたことにショックを受けたらしい。一応誉めたつもりだったんだけど、という思いを込めて彼の肩をパンチした。



「った、ちょ、名前…」
『バカ、誉めてんの。』
「へ、」
『かっこよすぎてびっくりした。…もう、ドキドキさせんな。』



私がそう言うと、一瞬間をあけて名前ー!と抱きついてくる涼太をなんとか受け止めた。うわ、汗かいたのになんでこんなにいい匂いなの。
視界にちらりと映った彼の左耳は、赤みを帯びていた。





油断大敵

油断すればまた心臓が騒がしくなる

(…涼太、顔見せて)
(い、今はダメ!)


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