短編

□テスト< < (超えられない壁)< < 君
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あーもう最悪だ。テスト直前の休日に教材を持って帰るのを忘れるとは。まぁ今日勉強しなくても当日の朝いつもより早く学校に行ってやればいいのだけど。でも私は朝ゆっくりしたいし、何より今せっかくやる気になっているのに教材がないからと勉強をしないのはどうかと思う。
とまぁそんな理由で私は休日の昼間に学校まで教材を取りに来た。テスト前だからどの部活も休みで、校舎内も静かだ。いつもは話し声で賑わっているこの廊下も、今は私の足音を響かせるだけ。静かな学校はなんだか不気味だ。夜ならもっと薄気味悪いのだろう。

とりあえず早く帰ろうと思い、自分の教室に行って教材を持ってきた鞄に入れて速やかに立ち去る。
あとは帰って勉強、と意気込んでいると体育館の入り口が開いているのに気が付いた。もしかして、と淡い期待を抱きながら体育館の中を覗きこむと、そこにあった姿に胸が高鳴った。

私の期待通りそこにいた笠松は床に座り、壁に背を預けて寝息をたてていた。その隣にはバスケットボールが転がっていて、彼が自主練をしていたことがうかがえる。
一応、定期テスト前の受験生なんだけどねぇ、と苦笑いを浮かべながらもそこが彼の長所でもあるのか、とひとり納得。
起こさないように静かに彼のそばに近付き、じっと寝顔を眺める。キャプテンとしての威厳を感じさせないその寝顔は穏やかであどけなくて、少しだけ幼く見える。
私は彼の額に小さくキスを落とし、いつもお疲れさま、と呟いた。そして帰ろうと立ち上がった瞬間強い力で手を引っ張られ、私の体はぐらりと傾く。
それをうまく受け止めた笠松は、どうやら最初から起きていたらしい。意外に意地の悪い人だ。



『…起きてたなら言ってよ。今死ぬほど恥ずかしい。』
「お前さあ、」



頭を彼の胸に押し付けられた。かたくて頼もしいなぁ、と感じていると照れたような声で続けられる。



「あんま、こういうことすんな。」
『は?』
「照れるだろ…」
『顔真っ赤だよ、キャプテン?』
「っせーなぁ」



テスト勉強なんてもういいからこのままこうして笠松の腕の中にいたい、なんて考える私は単純な奴だ。





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