短編

□黄色いキス
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好きな人と歩く帰り道。だけど、オレと彼女は恋人同士ではない。少なくともオレは彼女が好きだし、彼女もこうしてオレと2人で帰ったりするぐらいだから嫌われてはいないだろう。そうは思っていても、いまいち告白するタイミングが分からなくていまだ言えずにいる。オレらしくもない、と苦笑いしか出てこない。

はぁ、と吐く息は白く染まり、一瞬で消える。彼女の口元を見ると同じように白い息を吐いては消えていく。
そういえば、もうすぐクリスマスか。中学の頃は練習のあとに黒子っち達とパーティしたなぁ。今年からはそれもないだろう。楽しかった一時を思い出しては、少し切なくなった。
今年はどうしようか。きっと部活だろうけど、夕方からは時間が空くはず。撮影の予定もないし。
…彼女は、どうなのだろうか。そう思ってねぇ、と口を開いた。



「名前は、クリスマス予定あるんスか?」
『ん?んー…ない。』



彼女のことだから、そうだろうとは思っていた。もともとこういったイベントにそこまで興味はないし、彼氏もいない。そう分かっていても、その言葉を聞いて胸の奥がざわついた。



「…じゃあ、オレと過ごさない?」
『…なんで?』
「なんでって…」



逆になんでそんなことを訊く?と言いたかったが、先に声を発したのは彼女の方だった。



『涼太と過ごしたい子なんていっぱいいるでしょ?私なんかと過ごすより、そういう子たちと過ごした方がいいよ。』



彼女はそう言って、立ち止まったオレをちらりと見るとこっちに背を向けて歩き出した。
その腕を掴み引き寄せて、後ろから抱き締める。



「オレが、名前と過ごしたい。…それだけじゃダメっスか?」
『な、にそれ』
「…好き、」



名前はピタリと動きを止めた。そのままどちらも言葉を発すことはなく、沈黙が訪れる。どれくらいその状態が続いたかは分からないけど、たぶんそう長くはなかった。でもオレにはとても長いように思えた。



『涼太。』
「…」
『離して』



ああ、オレ拒絶されるんだ。そう思って彼女の体から手を離した。そして彼女が振り向いたと同時に口を開く。



「ごめん、いきなりこんな──」



オレは彼女の行動に驚いて口を閉ざした。彼女はオレのマフラーを引っ張り、グッと顔を近付ける。



『なんで謝るの?』
「え、っと…」
『私は嬉しいのに』
「…!?」
『好き、涼太。』



彼女はそう言うと、唇を重ねた。オレはもう何がなんだか分からなくなって、ただ目を閉じることしかできなかった。






黄色いキス



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お題はstardust様より。


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