短編

□不良少女と天然ボケ男
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昼の中庭をひとり宛もなく歩く。教室に行けばどうせ教師の説教が待っているなんて事は分かりきっている。わざわざそんなもの聞くために教室に行くなんてバカすぎて。

クラスに友達がいないわけではない。
友達には会いたい、けどその友達が教師に「あんな奴とつるんでいたらろくな事はないし、進路に響く」と言われているのを私は知っている。あんな奴というのはもちろん私のこと。教師はムカつくけど友達に迷惑はかけられない。だから私はなるべく教室には行かないのだ。

それにしても先ほどの喧嘩でやられた左頬が痛い。時間がたつにつれて熱を帯び、じんじんと痛むそれは他校の不良によって殴られたもの。口の端は切れて血の味がして非常に不味い。でもこんなの慣れてるし放っておけば治る、と思っていつも通り放置しておくことにした。



「…」



ぼーっと歩き続ける私を無言で見つめてくるのは確か同じクラスの木吉。
その目は、私のすべてを見透かすように真っ直ぐだった。そして何を企んでいるか分からない。どうもそういう目は苦手だ。私は居心地の悪さを誤魔化すように彼を軽く睨んでその場を立ち去ろうとした。



「待て」
『…離せよ』



あろうことかそいつは私の腕を掴んで行く手を阻む。身長も高ければ手もやたらでかい。たしか、バスケ部だったなぁとぼんやり思い出した。
木吉はポケットを探ると絆創膏を取り出し、それを私に差し出す。



「これ、貼っとけ」
『は?いらねーよんなもん。ほっとけ。』



そう言って腕を振りほどこうとするも、その力は思った以上に強くて離れなかった。くそ、なんなんだよこいつ。私は段々イラついてきて、目の前のそいつをキッと睨みあげる。



『離せって言ってんのが聞こえねーのか。』
「聞こえてる。」
『だったら…!』
「ほっとけないんだよ。」
『あ?』



無理矢理顎を掴まれて上を向かされた。その至近距離で見る真剣な顔に、不覚にもときめく。(私がときめくとかアホか…)そして口の端に感じるのは絆創膏を貼られる感触。
木吉の強引な行動に驚いて唖然としていると、そいつは私の明るい色をした髪をくしゃっと撫でて「せっかく可愛い顔してんだから、傷つけんなよ」と朗らかに笑って去ってしまった。

残された私はただ立ち尽くし、頭の中では今のやりとりが再生される。



『バカじゃねーの…!』



途端に恥ずかしくなって、スカートの裾を握りしめた。自分が自分じゃないような気がして、心臓が気持ち悪い。こんな風に顔が赤くなるのなんて、いつぶりだ。
たまらなくなって、絆創膏に指をあててその場にしゃがみこんだ。






不良少女と天然ボケ男


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