短編

□ブラックコーヒー
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放課後の静かな図書室には清志と私の2人だけ。定期テスト前の勉強会と銘打ったこの図書室デート(清志に誘われた私が勝手にデートだと解釈した)は、私達以外に人がいなくて快適だ。勉強するだけというのがちょっとつらいけど。
清志は真面目だから、本当に勉強をするために、お互いがいい成績をとれるようにと誘ってくれたんだろうな。そういう、自分にも他人にも厳しいところが好きなんだけど、やっぱり物足りない。せっかく部活が休みで久しぶりに2人でこうして一緒にいるのに。
向かい側に座って頬杖をつきながら問題を解いていく彼は、悔しいけどやっぱりかっこいい。このイケメンめ。

時計の針はもうここに来た時から2時間後を指している。勉強するの疲れちゃったし清志不足だし、休憩がてら清志補給(目の保養とも言う)をさせてもらおう。
私はなるべく清志にバレないように、シャーペンを持ったまま彼をじっと見つめる。色素の薄い髪の毛が夕日にあたってキラキラとオレンジに輝いていて眩しい。綺麗だな、と普通に見とれてしまう。



「おい名前、手止まってんぞ。」



思ったより早く気付かれてしまったらしい。私の視線があまりにも熱かったのだろうか。
もっと彼を見ていたかったとか勉強したくないとか、いろんな事を思いながら、あー、えー、などとよく分からない言葉を発しつつ言い訳を探している私を不思議そうな顔で見つめる清志は少し首を傾げていて、なんというかもう可愛い。眉間の皺すら可愛く見える。たまにそういうあざとい事をするから油断できないんだ、この人は。



『えーっと、うーん…』
「なんだよ」



まさかここで疲れた、なんて言ったらたぶん怒られる。パイナップルの刑に処せられる。俯いて必死に言い訳を考えてみても答えは出ない。ていうか疲れたとか、せっかく清志が誘ってくれたのにそんな事言えないよ…!



「…疲れたな。」
『え』
「オレなんか飲み物買ってくるから、お前も休憩してろ。」



そう言って清志は図書室を出てしまった。ここ飲食禁止だよ…じゃなくて、今のは私の気持ちを汲み取った上で気を利かせてくれたんだよね…?
なんだか申し訳なく思うと同時に、さりげない優しさを見せた彼にときめく。うわあもうやばい清志めっちゃ好きだ…!思わず顔を覆って足をばたつかせた。

いつも物騒なことばかり言って周りからは怖い印象を持たれがちだけど、本当は優しくて努力家でかっこよくてたまに可愛くて、私にはもったいないくらいの人。みんなに彼のいいところをもっと知って欲しいけど、私だけが知っていたいという気持ちもあってもやもやする。

清志はすぐに戻ってきて、買ってきたらしい缶コーヒーを1つ渡される。ラベルを見て思わず眉を寄せてしまった。私苦いのダメなのになんでよりによってブラック買ってくるの…と思いながら清志を見ると彼は既に同じコーヒーを飲んでいる。



「文句あんなら金返せ」
『いや…飲むけど…』
「苦い方がシャキっとすんだろ。分かったら飲め、再開すんぞ。」



私は仕方なく缶を開けて一気に飲み干す。うええやっぱり苦い。渋い顔をしていると不意に清志が机の向こうから上半身を乗り出してきて、だんだん顔が近付いてそのまま一瞬だけ唇に柔らかいものを感じた。え、え。



「…あと1時間。な?」



そのあと好きなとこ連れてってやるから、と続いた清志の言葉に全力で頷いた。清志とキスしたうえにデートだなんて、幸せすぎてクラクラする。
頑張る!と俄然やる気になった私を笑うその顔が優しくて柔らかくて、そんな笑顔を向けられたらもう爆発しちゃいそう。





ブラックコーヒー

苦味が残る口内と、甘く感じる唇。



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