□chocolate
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それは、市中を見廻っている時の事だった。

最近の俺は書類を処理する仕事ばかりで部屋に籠りきりだったため、近藤さんに言われて外を見廻ることになった。
煙草をくわえたままあてもなくぶらぶらと歩いていると、前方に見慣れた姿を発見した。



「…名前?」



女にして副長補佐を務めるほどの腕前を持つ彼女は、俺の恋人でもあった。今日は非番のはずだったはずだが、こんなところで何をしているというのだろうか。

しばらく様子をうかがっていると、彼女の他にもう1つの人影があることに気が付いた。
銀髪のだらしないその男に、俺の眉はピクリと反応する。

なぜあの2人が一緒にいるのか、なにを話しているのか…なぜ、名前はあんなに笑顔でいるのか。

…気にくわねぇ。何を言われたかは知らないが、俺以外の男にそんな表情を見せるなんざ面白くねぇ。俺は小さく舌打ちをして、来た道を引き返した。

自分の部屋に戻ってもさっきの光景が頭から離れず、書類にも集中できない。
筆を置いてひたすら煙草を吸った。灰皿はもう溢れそうになっている。



「くそ…っ」



なんなんだ、このモヤモヤは。この黒く渦巻くような感情は。
煙草を吸っても解消されない、どこにもぶつけようのない気持ちにどう対処すればよいかを考えていると、不意に部屋の襖があいた。



『土方さーん』



袋を片手にのんきな声でそう言いながら俺の部屋に入ってくる名前を見て、俺の中にあった黒い感情が、今まで我慢していたかのように牙をむいた。



『今ちょっといいです…っ!?』



言葉を遮るように彼女の細い腕を引いた。
そしてすぐ側の壁に押し付ける。



『…土方さん…?』



不安そうにその大きな瞳を揺らしながら俺を見上げてくる名前の唇を、無理やりふさいだ。



『んっ…!ふ…っ』



角度を変えながら、何度も何度も唇を重ねる。
だんだん深くなっていく口付けに、名前は苦しい、と言うように俺の隊服を弱々しく掴んだ。いつもならやめてやるところだが、残念ながら今日の俺はそんな優しさを持ち合わせていなければ、余裕もない。こいつがあのいけ好かねぇ野郎に奪われてしまうのかと考えれば、余計にだ。

俺は片手で彼女の両手を頭の上でまとめ上げ、もう片方の手で女特有の体のラインをなぞるように名前の腰をゆるく撫でた。



『んん…っ!はっ…』



顔を真っ赤にして苦しそうに顔を歪めている彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれた。その涙が何を意味しているのかは分からないが、それを見た俺の心臓は握りつぶされたように痛んだ。



「…っ!」



気付けば俺は、唇を離し名前を抱きしめていた。



『ひ、土方さん…?』
「…わりぃ。」



俺は今、彼女に何をしようとした。怒りにまかせて、こいつをどうしようと…。

冷静になった頭でぐるぐると考える。
あのまま続けていたら、きっと名前泣かせるような真似をしていたのだろう。
嫉妬という醜い感情からこいつをめちゃくちゃにして、取り返しのつかないことをしようとした自分を、ひどく惨めだと思った。

何も言わずに俺の背中に手をまわす彼女。
その温もりに安心して、目を閉じた。



「…お前が、あの野郎と一緒にいるのを見ちまったんだよ。」
『え…』
「それで、その…嫉妬した。」



俺がそう言うと、名前は少しだけ体を離して俺の顔を覗き込んだ。



『…土方さん、顔赤いですよ。』
「…うるせぇ、見るな。」



急に恥ずかしくなってきて、顔をそむける。
すると、名前はごそごそと持っていた袋を漁り、何かを取り出した。



『これ、土方さんに。』



差し出された彼女の手には、チョコレートの箱が握られていた。



「なんで…」
『ほら、土方さんってば最近忙しくて息抜きもできてなかったでしょ?疲れを取るなら甘いものがいいと思って。今日は非番だったから買いに行ってたんだよ。そしたら帰りに銀さんに会って…』



なんだ、そういうことか。
緊張感が抜けた俺の体は一気に力を失い、もたれかかるようにしてもう一度名前を抱きしめた。



「焦ったじゃねぇか…」



ため息と一緒に吐き出したその言葉は思ったよりも情けなくて、俺らしさの欠片もなかった。
そんな俺を優しく抱き留める名前は、クスリと笑って俺の胸に顔を埋めた。
しかしそれも一瞬で、彼女は俺を小さく押し返すとさっそく箱を開けてチョコレートを一粒取り出した。



『はい、口開けてください。』



そういう、いかにも恋人同士っていう行為は苦手だし柄じゃないが、彼女にひどい事をしそうになってしまった手前拒絶することもできず、素直に口を開けた。



『おいしいですか?』



ニコニコしながらそう訊いてくる名前は、本当にいい女だと思う。恋人なんだからそう思うのは当たり前だろうけどな。

そんなことを考えながら俺は彼女の唇に自分のそれを寄せた。



『…!』



一瞬だけ触れて離れる唇。



「…どうだよ?」
『…あ…甘い、です…』






Chocolate

お前のせいで甘さ倍増だよ、ちくしょう。



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咲貴様へ土方さん夢!
いかがだったでしょうか?

裏が書けない分、
できる限り甘くしたつもりです…!


リクエストありがとうございました!




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