□嘘に嘘を
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「…俺さ、他に好きな女ができた。だから…別れよう。」



今日は1年に1度嘘をつける日。
つまり4月1日だ。
いつもはそういう行事に乗らない俺も、今回は珍しく参加してみることにした。ターゲットは彼女の名前。どういう嘘をつこうかと悩んだ末、俺は冒頭のような発言をした。

ソファに座ってテレビを眺めていた彼女は、チラリと隣に座る俺を見ると、また視線をテレビに戻す。どうせ彼女のことだから、嘘なんだと分かっているとは思う。分かっていて、わざと自分も嘘をつくのか、それとも素直に突っ込むのか。…どちらにしても、本気で騙されることはないだろう。
そう思っていた俺は、完全に油断していた。



「へぇ、奇遇。実は私も好きな人ができたの。良かった、別にお互いが嫌いになった訳じゃないからスッキリ別れられるね。」



しれっとした顔でそう言った彼女。
え、ちょっと待って。確かに俺の予想では彼女も嘘をつくか突っ込むかだった。実際に彼女は嘘をついている。…はず。
だって、演技にしてはあまりにも上手すぎない?この感じ。普通はこういう時、若干にやけてしまったりするもんなんじゃないの?俺だって笑うの必死に堪えてたよ?え?まさか本気で言ってるわけじゃないよね?…え?さすがの俺も傷つくんだけど…



「えっと…名前ちゃん?それは───」



嘘だよね?そう言いかけた俺は、名前に胸ぐらを掴まれたことによって口を閉ざした。
間近にある彼女の顔。それは先程と同じ無表情だったが、いつもはない鋭い雰囲気を醸し出していた。



『…なんて、嘘。騙された?』
「は…」



名前はニヤリと笑って俺の服から手を離す。なんだ、やっぱり嘘か。
なんて安心していると、俺の肩に心地よい重みがかかる。



『…ちょっと、信じたでしょ。』
「だってお前…演技上手いから…」



俺の肩に頭を預けたまま目だけを俺に向ける彼女。うん、可愛い。



『びっくりした?』
「…おぉ…」
『これに懲りたら、エイプリルフールだからってあんな嘘つかないでね。』
「…うん。悪い。」



私もごめんね、と言って俺に申し訳なさそうな顔を向ける彼女に、1つキスをした。




嘘に嘘を

(…お前可愛いな。)

(…それも嘘ですか。)

(違いますぅぅぅう)



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