□鼓動をからめて
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帰ってきたら、お前に聞いて欲しいことがある。


ザァッ…と波が押しては引く。やっぱり海にいると落ち着くなあ。私は砂浜に腰をおろして、日光を受けてきらきら光る水面を眺める。昔から、この景色が大好きだった。心が穏やかになって、時の流れがゆっくりになる気がして落ち着く。…何より、ここに来るとあの約束はまだ続いているんじゃないかと思えた。



『4年…』



そう、あの約束をしてから4年たったのだ。それは、長かったようにも短かったようにも感じられる。この4年で楽しいことも悲しいこともあったし、思い出も数えきれないくらいできた。ただ、その中に彼の姿はない。

夢に近付くために留学した凛ちゃんはオーストラリアに出発する当日、めそめそと泣いてしまう私とは裏腹に目をきらきらと輝かせていた。そんな彼にいつ帰るのかなんて聞けるはずもなく、ただひとつ言ってくれたことといえば、あの約束だけだった。泣きじゃくる私の頭を撫でてくれた手の感触はまだ覚えている。

きっと私は凛ちゃんのことが好きで、凛ちゃんも私のことを好いていてくれた。あの頃は幼くて、付き合うとかそういう事には発展しなかったけど。まあ、それも昔の話だし、あの頃の凛ちゃんが本当に私を好きだったかなんて分からない。でも、私は今でもあの約束に縋ることをやめられないでいた。
凛ちゃんは、もう約束なんて忘れちゃったかな。思えばあれは幼い子どもの、ただの口約束だったんだ。忘れてしまっても無理はないし、彼を責めることなど出来ないのだ。

…さて、そろそろ帰ろう。
立ち上がって海に背を向けると、私の目に入ってきたのは背の高い男子だった。たぶん歳は同じか少し上くらい。
何故か、その人と合った目がそらせなかった。
お互い無言で見つめ合っているのもおかしいし、失礼かな。私はそう思って彼の横を通り過ぎようとした。だけど、その瞬間にもう一度見た彼の目にやたら見覚えがあって、思わず立ち止まる。いや、見覚えどころじゃない、この印象的な髪の毛の色はもしかして。



『…凛ちゃん…?』
「…やっぱり、ここにいたんだな。」



名前、と私を呼ぶ声は4年前とはだいぶ違って低くなっていたけど、声の抑揚や私に向ける眼差しはあの頃のままだった。私が待ち焦がれていた、凛ちゃん。



『帰ってきたんだね。』
「ああ。」
『…おかえり、凛ちゃん。』



ちゃん付けはもうやめろ、と文句を言いながらも凛ちゃんは「ただいま」、と嬉しそうに笑った。身長も伸びたし声も変わったし、全体的に大人びているけど、やっぱり変わらない。私が大好きな凛ちゃんだった。



「…なあ。」
『ん?』
「約束…覚えてるか?」



約束、という単語に心臓が跳ねる。凛ちゃんも覚えていてくれたらしい。そのことに喜びを感じて思わず頬が緩む。



『覚えてるよ。』
「…あの時のやつ、今言ってもいいか?」
『うん…』



ずっと気になっていた事だけど、改めて聞くとなると緊張してしまう。それは凛ちゃんも同じらしく、顔が少し強ばっているように見えた。
そして、私の肩を掴んで目を見据えられる。心拍数がどんどん上昇して、心臓が壊れそうだ。



「俺、お前のことが、」






鼓動をからめて

砂浜に伸びた2人の影が、重なった。



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Title by シングルリアリスト



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