捧げ物

□能ある鴉は翼を見せつけ
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一瞬、それが誰に向けられたものか理解できなかった。
けれど、此方を振り返った少年の鋭く光る双眸が明らかに自分を見据えていた為、ようやく自分に対しての問いだと気づく。

そんな自分に対し、少年は更に問うた。


「雑魚の相手ばっかしてると、弱くなる気がしねー?」


漲る闘争心を隠しもしない姿と。
日に当たり鈍く輝く左耳の2つの黒いピアスが、やけに印象的だった。


――これが、咲真琴が南樹と初めて出会った日の記憶である。





あれから半年。


いっそ見事なまでに「東中ガンズ」を敵に回し、「カラス」と呼ばれるようになった少年は、真琴の前で平然と食事をしていた。
あの強烈な出会い以降、妙なほどに懐かれ、ガンズの連中を返り討ちにしたついでに、度々入り浸られている。

ちなみに、訪れるのは大体昼時だった。


(たかられてる気がしないでもねーなぁ……)


もっとも、普段樹から得ているものを思えば、これくらい安いものだが。

やたらと必死な様子で食べる(別に取ったりしないのだが)樹を見ながら思っていると、口一杯に頬張った顔がこちらを向く。
あの日見た闘志を収めた漆黒が、不思議そうな色を浮かべた。


「まひょほはん? ひょうかひたんふか?」

「なんでもねぇよ。だからとりあえず飲み込め」

「へーい」


もごもごと返事をして勢いよく咀嚼を再開する姿は年相応で、あの厳つい集団の上手を行くようには見えない。
しかし樹の強さは本物であったし――何より彼には、あの連中には無い「翼」があるのだ。


真琴は、飢えた獣のように食べる少年から目を逸らし、玄関に置いてあるA・Tを見た。
羨むほどに見事な調整をされている、鴉の「翼」。

(……考えてみりゃ、妙でもないな)


(コイツが俺に懐いたのは、これが切っ掛けだ)


初めて出会った日、真琴はA・Tの練習をする為に出かけていた。
そして、そのホイール音が近づいてくるのを、喧嘩中に耳聡く聴いた樹は、真琴に話しかけてきたのだ。


同類だと思って。



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