捧げ物
□能ある鴉は翼を見せつけ
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それから樹は、A・Tに関して様々なものを、真琴に与えてくれた。
それは例えば、恐ろしいほど深く豊富な知識や、樹自身が魅せた素晴らしいトリックだ。
真琴が出来ないものを易々とやってのけ、更には教えてくれさえした。
そんな事を思い出し、今度は嘆息する。
「勿体ねーなァ」
「何がっスか?」
今度こそ口の中の食べ物を食べ終え、はっきりした樹の声が返ってきた。
じっと見据える目と目を合わせ、「お前の事だよ」と言う。
「あんだけ飛べる奴がアマなんてよ……なぁイッキ、やっぱコッチに来ねえか? 何も今すぐの話じゃ」
「無理っスね」
此方の言葉を遮り却下した樹は、残念そうな顔をしているだろう自分に懸念することなく、水を飲んだ。
成長途中の細い首が、ゆっくりと水を嚥下していく。
は、と息をついて水を飲み終えた鴉は、飲んだ水の名残で濡れる口の端を上げた。
出会った日に見たせせら笑いではない、誇らしげな笑顔。
「俺には俺が背負ったモンがあるんで。それを捨てたりなんか、出来ないっスから」
凛とした響きすら持った声が、聞こえる。
年齢に見合わないものを、当然のように背負っている年下の好敵手の分かっていた答に、真琴は笑い混じりにため息をついたが。
「生意気言いやがって!」
「うわ、やめて下さいよ真琴さん!!」
身を乗り出し、髪を乱すように容赦なく撫でれば、やや嫌そうに、やや照れくさそうな笑みが返される。
この姿を見ただけなら、樹が暴風族――それも、国内最大規模の暴風族連合の総長などとは、誰も思いはしないだろう。
正直な話、その事実を知った時の真琴も、俄には信じられなかった。
例え数少ない映像にしっかと映っていても、暴風族という翼を武器に互いを傷つけ合う者と、自由に飛ぶことを好む樹では、欠片も重ならなかった。