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□飼い犬と飼い主と
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必死に主張しようとした口を塞ぐように、それまで噛みついていなかった二匹の犬も噛みついてくる。
数倍増した痛みがまともな言葉を使わせないようにし、またもや絶叫しか生み出せなくなった。
そのあまりに悲惨な様子を見た兄は、見るに見かねたようにため息をつくと。
「こら、お前らじゃれるの止めたれ。そいつうっさいから」
『ワン!』
まさに鶴の一声。
あっさりと牙を離した犬達は、元気に可愛らしい鳴き声で返事をして、飼い主の元へ駆け寄っていく。
その健気で従順な態度に、空は上機嫌になって。
「こんなに素直で可愛えのになー」
足元へすり寄ってくる犬達に、笑顔の兄。
一見すると微笑ましい光景なのだが、宙は見た。
空の足元にすり寄った三匹が、揃いも揃って狡賢い表情をしていたのを。
そのあくどい表情から垣間見た犬達の本性を兄へ知らせるべく、弟は犬達を指差しながら再度叫ぶ。
「そんな奴ら飼ってええんか!? 躾もなっとらんやないか!」
「安心せい」
渾身の主張に、兄は余裕すら見せて答えた。
何故か自分を見下ろしながら。
「躾なら慣れとるわ」
飼い犬と飼い主と
(ところで空ー)
(なんや?)
(前ににゃんこ拾ったやん?)
(せやなァ。あれは気紛れやったけど。それがどないした?)
(いや、ほら。あの時のにゃんこって残ったのを拾ったやないか。もしかしたら今回も、売れ残り貰ってきたんかなーとか、こう)
(…………)
(空?)
(……コールド、ストーン、スタナー。いてこませ)
(ガウガウバウ!)
(うお!? なんや兄ちゃんなんで急に犬を、いででででででででででで!)
(決まっとるやろ。躾や、躾)