短編
□空(から)の逢瀬
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満月特有の明るさを誇る、夜空の下。
天然の優しいそれとは異なった、目に痛い人工の明かりに薄く当たりながら、1人の青年がビル街を飛んでいた。
やや長い黒髪を部分的に結び、獰猛な色を含んだ細い目を持つ。
夜風に翻り、まるでそれ自体が翼のように見える上着を被った、筋肉質な身体。
時折ビルを蹴る、A・T。
「疾風の狼」とも呼ばれた「風の王」の片割れであり、チーム・創世神に属する「石の王」。
武内宙。
彼は、ビル街の中を無目的に飛んでいるわけではない。
ある人物と会う為に、指定された場所に向かっていた。
「あのクソガキ、また急に呼び出しくさって……」
憎たらしげに言いながら、その目は隙なく周りを観察する。
指定されたビルを探しているのだ。
そうしているうちに、宙の目に1つのビルが映った。
「……あれやな」
言われた通りの特徴があるビル。
更に言うなら、その屋上には1つの人影があった。
少し目をこらした後、風を蹴った。
一気に速度は増し、あっという間に目的地であるビルの屋上へ到達する。
A・T特有の着地音を立てながら降り立つと、自身から少し離れた場所に立っている、人影を見た。
人影の正体は、少年だった。
人工の光に照る、立った烏羽の髪。
闇に溶け込みがちな黒に身を包んだ、しかし一度目につくと決して溶け込まない姿。
目下の敵であるチーム・小烏丸のリーダーにして、「嵐の王」を冠する少年。
南樹。
樹は宙の存在に気づくと、強さを宿した漆黒の瞳でひたと見据え、思いきり舌打ちをしてきた。
遅れたことへの苛立ちだろう。宙としては、傍若無人な樹が遅れずにいたことに驚きたいのだが。
「おっせー。俺様を待たせるとはいい度胸じゃねェか、宙」
身勝手な言い分に、やや苛立つ。
「年上を呼び捨てにするクソガキに、礼儀を払う主義は無いんやけどなァ。大体、自分こそ珍しいやん? 先にいるなんて」
「子鮫を追っ払って来たら、早く着いちまったんだ。いッくら心優しい俺でもな、わざわざおまえを待ったりしねェよ」
「せやなァ」
確かに、共に野宿している「牙の王」の目をかいくぐる隙が出来たなら、時間を選ぶことなどしないだろう。
納得しながら、樹の傍へ寄った。
「翼」が立てた軽い軋みが、夜の中でいやに響く。
「『牙の王』より弱いイッキ君は、こそこそ動かなあかんもんなァ」
それに対し樹は、いつになく冷えた瞳と雰囲気で宙に返す。
「その呼び方ヤメロ」
「ええやん、別に。イッキ君?」
もう一度そう呼べば、冷たい表情をした顔に不愉快さが浮かんだ。
大方、裏切った兄を思い出すのだろう。いかにも嫌そうな色を帯びた烏の漆黒に、溜飲が下がる。
だが、しかし――気にくわない部分もある。
この場にいない兄が、目の前の烏を傷つけるという事実だ。