捧げ物

□能ある鴉は翼を見せつけ
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陽光に暖められたように気持ちのよい風が吹き、風花と見紛う桜花の欠片が春の空を緩やかに舞う。
そんな春めいた景色の中、むさ苦しい男の悲鳴と宙を舞う厳つい体を視界に入れた時、思わず足を止めてしまった。


少し離れた場所に見えたのは、桜の下、たった1人の人間が次々と周囲の人間を倒していくという、中々爽快な景色。
倒す方も倒される方も学ランを着ており、東雲東中学校の生徒であるのは一目瞭然だ。


(こんな天気の良い日にケンカか……ご苦労なこって)


多人数対1人という卑怯とも言える状況だが、別段そこは気にしない。
自分もそんな状況に陥ったことは多々あるし、何より今、最後の1人を鮮やかに蹴り倒した姿を見れば、気にしなくて良いだろう。


(まぁ)


見るからに年下の奴に負けてる彼らは情けないが。

そんな事を思いつつ、たった1人佇んでいる少年を観察する。

穏やかかつ華やかな桜とは対照的に、鮮烈な印象を与える烏羽色の立った髪を風に靡かせた細身の少年。
未だ成長途中である小生意気そうな顔をした彼は、年不相応な苛烈な闘志が燻っている漆黒の瞳を垣間見せ、地に伏した彼らを俯瞰し、笑っていた。


その傲慢な笑みと、あまりにも喧嘩慣れした――否、戦い慣れした雰囲気に悟る。

地に伏した彼らでは、力不足だと。


「随分弱ぇんだな、アンタら」


声が聞こえた。
かろうじて意識を残しているらしい男達へ、嘲りを多分に含ませた声。


「『ガンズに入れてやる』なんて何様な発言をこの俺にしといてよ」


まぁ分かっちゃいたがと言いながら、倒れた相手の頭を足で小突く。


「だから、俺様が親切にも『俺の下につくなら考えてやるよ』って提案してやったのにな……メッタにねぇチャンスをテメーで潰すとか、馬鹿だろ?」


「なぁ、アンタもそう思わねー?」



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