頂き物

□夏風-ナツカゼ-
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風が頬を撫でる。
そのくらいの柔らかさで、頬に添えられていた手のひらが名残惜しそうに離れていった。
掠めるように一瞬だけ触れた唇。
確かな熱の余韻に、かぁっと顔が熱くなる。
鼻先にある、スピの整った顔。
いつだって真っ直ぐに俺を見つめる緋色の目が見当たらない。
本当はアンタ、キスすげー上手いのに。
そういうのされると、俺、すぐ膝抜けっから……。
そんな俺に合わせて、そっと唇を合わせるだけ。
キスって言えないくらい軽いやつなのに、ちゃんと目ェ閉じンだな。
律儀な奴、と告げた心の声を悟ったのか、スピがゆっくりと閉じた瞼を持ち上げた。
瞳の中に映る自分は、ほんの少し眉を下げてまるで「もっと」と言っているような、物欲しそうな顔。
アンタも同じ俺を見ているのかと思うと、一気に体温が上昇する。

「カズ君、誰も見てないよ? 安心して?」

アンタは再び目を細め、穏やかな微笑みを浮かべる。
違う。違うんだ。
アンタが思うような心配をして、赤面したんじゃない。
年がら年中女のことしか考えてねーで、チチがどうとかケツがどうとか。
エロ道一直線なオニギリの話を聞いていると、同じ年頃でも俺はそういうのへの興味が薄い方だと感じていた。
けど、アンタの前にいる俺はそれと大差ない。
エロいことされるのは恥ずかしいから苦手なはずなのに、心とは裏腹にあんな……誘うみてーな顔して、さ。
ただの、エロガキじゃん。
オトシゴロな自分と向き合うのは、あれだ。
アンタにエロいことされるより、数段恥ずかしい。
夜風に吹かれても冷めることのない耳を押さえ、返事が出来ない悔しさにむぅ、とアンタを見上げた。
そしたら、困ったように形のいい眉を下げられて。

「本当だよ。ちゃんと確認して……って、あれ。この言い方だと、何だか僕、カズ君とキスするタイミングをずっと窺ってたみたいだね」

見当違いなことを言って、勝手に墓穴掘って、はは……と苦笑する。
そんなアンタからは、手慣れた大人の雰囲気は全然なかった。
なぁ、と呼びかけると小さく首を傾げて言葉なく「なぁに?」と穏やな仕草で問う。

「もしかして、アンタ……、キスしたかったのか?」

違っていたら自惚れ以外の何物でもない質問を、恐る恐るぶつけてみた。
カリと指の先で頬を掻き、アンタは月明かりに照らされたそこを淡い色を染める。

「したかったよ。だって、カズ君と一緒にいるんだもん。好きな子にキスを贈りたいと思うのは、当然じゃないかな?」

「それ以上も?」

好きな相手だったら触りたいって思うのも、もっと触って欲しいって思うのも、当然のこと?
アンタとのキスは恥ずかしくて、時々息ごともってかれて苦しかったりするけど、いつだって気持ちいい。
だから離れてく瞬間、物寂しくなる。
引き留めたくて、でも出来なくて。
一人で悶々としてさ、訳分かんなくなるんだ。
それって、俺がエロガキだからじゃなく、アンタが好きだから、そうなンのかな?
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