拍手

□黄昏と黎明の兆し
1ページ/3ページ


それは、荊に囲われた鳥籠の中にいることを知らずにいた烏が、自らに備わった翼に気づき、羽ばたかせた時。

懸命に飛ぼうとする烏も、「森」に生きる番人達も、「渡り鳥」ですら気づかない場所で、始まりの一部始終を見ている者がいた。


A・Tを身に着ける者、また暴風族に属している者達にとっては、もはや一般道同然になっている民家の屋根。
その上に座り眺めている姿は、端的に言えば、闇を人型に切り取ったようだった。


白い十字をさりげなく使った黒い長めのパーカーと、黒のズボンを穿いた細身の身体に、夜の光を浴び存在感を見せつけるA・T。
無造作に置かれた手は骨ばっているが、大人のそれより柔らかさを残している。
フードを目深に被り、夜であるにも関わらず黒いレンズの入っているゴーグルをつけた白い顔は、どう見ても少年のそれ。

彼は口元に笑みを浮かべ、眼下の光景を見続けていた。


そして、「森」の協力を受けながらも翼の使い方を知り、自らの手で勝利をもぎ取った烏の姿を見届けた時。
口元の笑みは満面の笑みを変わり。


「Welcome home,my twin」


薄い唇から紡がれた流暢な英語を聞き届けたのは、彼の左胸に刻まれた八つ足の馬のみだった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ