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□八つ足の神馬とその飼い主
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夜の帳が完全に落ち、夜を走る者達が動き始めた頃。
ある廃墟ビルの中に多くの人間が存在し、ざわつきが生まれていた。
ざわめきの対象は、観客達に囲まれる形で対立している、2つのチーム。
一方は、パンク風の同じジャケットを身につけた、見るからに柄の悪い男達が4人。その足下には、鈍く光るA・Tを穿いている。
見るからにイライラしている彼らはBクラスチームであり、今回は挑戦者側である。
一方、その挑戦を受けたチームの方は、中々変わった3人が立っている。
1人目は、色素の薄い長めの髪と整った白い顔を持ち、ゲームに出てきそうな、非現実的な服を着た男。
大剣を背負って姿勢良く立つ細身の姿の中で、足下のA・Tだけが現実的に存在する。
「雪原の叙事詩(エッダ)」
ウートガルザロキ。
2人目は、ロキとは違い短髪で、精悍な顔立ちをした、筋肉質な体格の男。
着ている服は、ロキと共通したデザインで、やはり非現実的な印象を与える。
「天空の槌(アースガルズ・ミョルニル)」
トール。
最後は、前述の2人に比べてかなり頼りなさを感じる、枯れ木のような細い男。
量の多い髪を上げ、非現実的な服を着た姿は、まるでひょうきんな道化師のようだった。
「霜の鬣(フリームファクシ)」
ノートダグ。
Aクラスチーム・スレイプニール。
前回の「鱗の門」トーナメント優勝チームであるにも関わらず、滅多にバトルを受けない彼らの姿見たさに、観客のほとんどが集まっていた。
しかし、いつまでたっても始まらないバトルに、観客達の中で疑問が浮かぶ。
何故、3人しか居ないのだろう?
スレイプニールは基本4人、もしくは5人でバトルを行うはずで。相手が4人なら、もう1人必要なのではないか――?
幾度となく浮かぶ疑問はやがてもどかしさへ変わり、観客達の苛立ちを募らせる。
広がるざわめきが、徐々に不満を帯び始めたその時。
2つのチームの間に、1人の人間が現れた。
目深に被ったフードと、黒いレンズの入ったゴーグルによって顔の大半を見せない人。
細身ではあるが柔らかさのない体つきからして、どうやら男らしい。
白を基調とし、非現実的な服を着た3人とは対照的に。
左胸に八つ足の駿馬を刻み、白い十字をさりげなく使った黒く長めのパーカーと、黒のズボンを穿いた、至って普通の姿。
勿論、足下にはA・T。
その突如現れた漆黒の人物に、観客は息を呑む。
彼らの前に現れたのは、スレイプニールの中で最も異質であり、同時に最強なのではないかと囁かれている存在。
「争いと死の風(フリズスキャルヴ)」
オーディンだった。