サンプル
□飼い犬と飼い主と
1ページ/2ページ
じっとこちらを見上げてくる、三匹の子犬。
どんな種類か分からない犬達は、子犬特有のふわふわとした毛皮に包まれ、微かに震えながら身を寄せている。
その愛くるしいという言葉が相応しい姿を見下ろしていた武内宙は、同じく犬を見下ろしていた兄へ視線を移す。
いつになく上機嫌な空は、目が合うと楽しげに問うてきた。
「どうや、可愛えやろ?」
その問いかけに、満面の笑みで「ほんまやな!」と返す。
「やっぱわんこも可愛えなァ!」
率直な物言いに、思わずといったように兄の顔が更に綻ぶ。
「せやろ? なんや店行ったら気に入ってもうてなぁ、つい買ったんや」
しゃがんで子犬達の頭を順々に撫でていく兄は、「コロコロしてんのが良いやろ?」と聞いてきた。
「せやなぁ。やっぱなんでも小ちゃいのが」
空に倣うように犬へ手を伸ばし、言葉に頷く宙だったが。
がぶりという恐ろしく鈍い音が響き、声は妨げられた。
「………………いだだだだだだだだだだだだ!?」
突然の攻撃に驚いた宙は、細い目をだんだんと見開き、ようやく実感した痛みに響き渡るような絶叫を上げる。
生理的に浮かぶ涙の中で噛まれている手先を見れば、成長途中の子犬の歯が、深々と食いついていた。
しかも現在進行形で。
「離せ離せ離せ離せ! 離せやアホ犬ー!」
「くぉら宙、振り回したるなや!」
本気の絶叫を上げながら犬ごと手を振り回すと、空が窘めるように怒鳴ってきた。
「子犬の甘噛みやろ? 何そんな喚いとんねん、アホか」
「いやいやいや! 兄ちゃん兄ちゃん、コイツ本気で噛んどる! ワイのこと餌やと思っとる!」
「お前みたいなん餌と思うほど馬鹿やないやろ」
「ホンマやて、信じ、あいたたたたた自分らも噛むなああああああああああああ!」