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□黄昏と黎明の兆し
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「――『彼』はとうとう飛んだのか?」
一人でいた筈の少年の後ろから、突如静かに問いかける、どこか芝居がかったしゃべりをする声。
しかし、声をかけられた黒い少年は、驚くことも警戒することもなく、むしろ楽しげな声で「ああ」と返した。
「『髑髏十字団』がアイツの周りで動いてるって聞いたから見に来たけどよ……あのザコ共のおかげでアイツが返ってきた!
『眠りの森』と『渡り鳥』が気になっけど、まァとりあえず良かったな」
少年の言葉に、「そうか」と納得の声が返される。
「しかし彼はまだ初心者だろう?本当に、君が望むようになるのか?」
「なるに決まってる」
少年は言葉を切り、立ち上がり、振り返った。
振り向かれた声の持ち主は、少年の黒いレンズ越しの視線を見返してくる。
月光を照り返す色素の薄い長めの髪と、その下にある整った白い顔。
ゲームのキャラクターを思わせる、少年と同様に白い十字を使った浮いた服装に、姿勢のいい背に背負われた大剣。
あまりにも現実味の無い姿をした男。
唯一現実味を持っているのは、その足のA・Tだけだった。
そんな男に少年は、ただ嬉しそうだった笑みに傲慢さを孕ませて続ける。
「俺がこうなんだ、アイツがこうならないわけがない」
傲岸と断言する声。
男がそれにただ頷けば、少年は笑みを戻し、視線を先ほどまで見ていた場所へ移す。
「ロキ」
「なんだ」
「始まるな、これから」
男――ウートガルザロキに少年は言って、ゴーグルを下ろした。
ゴーグルの下から出てきたのは、眼下で意気揚々と帰って行く烏と全く同じ顔。
ただ、夜とは違う強い黒の双眸に浮かんだ十字が、眼下の烏と別人であることを示している。