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「すいません、只今ご家族の方にアンケートを行っているのですが、ご協力お願いできますか?」
「何カン違いしとんねん姉ちゃん!」
「ワイらのどこが、この男の癖にマニキュアつけた変なオッサンと家族に見えるんや! アホか!」
「え!? す、すいませんでした!」
「ああいえ、お気になさらずお嬢さん」
「気障ったらしいな自分……」

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「そんなに不機嫌にならなくても良いだろう?」
 すれ違う人々や、道路を走っていく車などにより形成された雑踏の中。
 むくれた顔のまま隣を歩く子供二人に南林太が声をかければ、鏡像のように酷似した顔が同時に彼の方を向いた。
「機嫌悪くもなるわ! なんで自分なんかを父親にせなあかんねん!」
 狡猾な光を宿す双眸を細めたまま睨みつけてくる少年は、武内空。
 ポケットに両手を突っ込み、やや前屈みになって歩いていく姿は、成長期前の少年でなければさぞ迫力があっただろう。
 せめてA・Tを履いていればマシだったろうが、珍しく今日は履いていない。
「ホンマムカつくで……腹いせにチチでも揉んだれば良かったわ。顔は結構可愛かったしな」
 一方、先ほど声をかけてきた女性(確かに可愛かった)を思い出して、やや下卑た顔になっているのは弟の武内宙。
 兄同様A・Tを履いていない彼はポケットに手を突っ込んでいないものの、兄と違いコンクリートを蹴りつけるように歩いていた。
 色違いの同じ服をまとい、帽子からはみ出た黒髪までそっくりの双子は、雑踏の中に紛れることが難しいほどの存在感を放ちながら、歩いていく。
「何を基準に判断したんや……」
「格好が似てるからじゃないかな。ほら、帽子とか」
『うぇっ!』
「汚い物に気づいたような顔して帽子取らなくてもいいだろう! 流石に泣きたくなるよ?!」
 素早く、かつ豪快な動きはあまりに頑なで、気にすることではない筈なのに悲しくなってきた。



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