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 一日の大半が終わったことを表す黄昏により赤々と染められた、東雲東中学校の校庭。隣接する校舎の影もまた赤味を帯び、まるで全てが燃えているように見える。
 昼間が快晴と言うに相応しいほど晴れ渡っていたからだろう。強烈な橙は、同じ空間に存在する者達の目を鮮やかに焼いていた。
 そんな、ありきたりだが価値のある風景の中。
「イッキ」
「んあ?」
「俺さ、お前のこと好きだわ」
「ほー……は?」
 あっさり告げられた為に聞き流しかけた、聞き流してはならない言葉が響く。
 あまりに唐突すぎる状況に、言われた者と言った者は、それぞれ正反対の反応を見せた。
 言われた者は、ツンツンに立った陽光をさりげなく照り返す黒髪と、驚きで丸くなっている我の強そうな双眸が印象的な少年。「小烏丸」リーダーであり、今や「嵐の王」と呼ばれている南樹。
 一方の言った者は、陽光を強く照り返す金髪を白いニット帽に隠し、碧眼をひたと樹へ向けている少年。「小烏丸」内では影が薄いとされていたが、最近ようやく名実ともに「炎の王」となった美鞍葛馬。
 共に沈黙した二人の頭上遙か高くを、巣に戻る鳥が通っていった。その鳴き声にようやく我に返った樹は、突然すぎる告白をした幼馴染を改めてまじまじと見る。
 二人が今こうしているのは、「創生神」との来たるべき最終戦の為の調整だった。他のメンバーは居ない。昼間の練習を終えた後は、各自適当にしていいと、他ならぬ樹が言ったからだ。
「戦争」と銘打った戦いを終わらせる。その為に必要な覚悟を、それぞれがもう一度決めればいいと、そう思ったからだ。
 樹は、覚悟をより強固なものにしようと、バトルに支障がない程度に走ろうと思った。そこで一緒に葛馬が走りたいというから、いつも通り許してやって、日が暮れるまで適当に走ったのに。
(なんでこんな事になってんだ?)
 真剣な面持ちから、常人よりかなり鈍い少年にも、決して冗談ではないということを教えてくる。
 しかしそれでも、樹は言葉を信じまいとして、わざとらしくぎくりとした。



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