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□勝利の神
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「空ー。これ、餞別としてやるわ」
「餞別ってワイが貰うもんとちゃうやろ……てかなんや急に……!?」
アメリカ出発の前夜。
椅子に座っている兄が、気軽な動作で渡した物に驚く様子を見て、武内宙はにんまりと笑った。
手渡した物は、一見するとただのA・Tのホイールにしか見えない。片方のみしかないそれの側面には、「welcome」と書かれている。
今や「風の玉璽」とも呼ばれるパーツ、バグラム。その片方であり、これまで宙が空と共に使っていたものだ。
宙は口を開く。
「片っぽだけ持っていってもしゃあないしな。渡しといたる」
「随分と上からな物言いするやないか」
見下ろしながら言ったことが気に食わなかったのだろう。伸びてきた兄の手は、丸みが大分なくなった頬を思いっきり抓ってきた。
中々痛い感触に、宙は顔を歪める。
「いひゃいで兄ちゃん」
「やかましい。……けどまぁそうやな、忘れとったわ。ありがたく貰っといたる」
ふんと息をついた兄は、抓っていた指先を離す。
そうして渡したバクラムを指先で弄りながら、「けど」と軽く問うてきた。
「自分はええんか?」
「何がや」
「これを渡すちゅうことが、何を意味するか分からん訳とちゃうやろ?」