サンプル
□王は手駒を捨て
2ページ/4ページ
けれど空は、伸びてきた手が届かない距離に立ったまま、言葉を続けた。
用済みの手駒の最期を、弄んでやる為だけに。
「自分のおかげで、アイツら全員死におった」
浅く速い呼吸が、段々と緩やかになる。
耳を傾けているらしい姿に、噴き出してしまいそうだ。
「玉璽も全部回収できたし、これもみぃんなお前が気張ってくれたからや」
空との絆などという存在しないものの為に必死になって、まんまと使い勝手のいい手駒となってくれた愚かさのお陰だ。
「ありがとなぁ、宙」
どうしようもない馬鹿でいてくれて。
震える声で礼を述べて、内心でそう嘲る。
ちなみに、声の震えは隠しきれなかった罪悪感から――などではなく、先ほどからこらえている笑いの為だった。
追い風が吹き、漂う血の臭いが薄くなる。
帽子を飛ばされないよう、手で咄嗟におさえた。
弟の呼吸は、少し強く吹く風の音で消えてしまうほど弱々しい。
もう死んだのだろうかと、地に伏せたままの宙を見る。
わななく唇が生きていることを示唆していて、早く死なないものかと思った矢先だった。
「……そ、ら」
ひびわれた、精気のない声。