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□王は手駒を捨て
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それでも、ここまで声を出せなかった弟の発した肉声に、兄は目を見張る。
そんな兄の様子に気づかぬまま――あるいは気づけぬまま――宙は訥々と問うた。


「ワイ……やくに、たてた? …………にい、ちゃんの……やくに」


死ぬ間際の老人を思わせる声は、幼子が大人へ素直に問うような純朴さを持っていて。
あまりの素直さに、浮かんだ笑いが思わず引っ込む。

生まれた間に響くのは、弱まった風と、また耳に届くようになった弟の息。


(……死にかけやから、さっきのが聞こえんかったんか)


全く、最期まで面倒な男だ。
ため息を吐きたくなるも、それは抑えて深く息を吸い。


「あぁ、役に立ったで」


一際大きな声で告げる。

一応してやった配慮は、功を奏したらしかった。
指先を一段と大きく震わせた弟の、浅かった呼吸が一番深くなり、おそらく安堵の息を漏らし。


期待通りの答だったと、満足そうな笑みが浮かぶ。


「……なら、ええわ……」


吐息混じりの声の語尾が、弱々しくなっていった。
呼吸はまた浅くなり、風が止んだにも関わらずほとんど聞こえない。

必死に空を探していた瞳も、動くことを止めた。



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