小谷の姫
□再会の華
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「……?どうされました」
家臣の一人に声を掛けられ、私はふと我に返った。
「いや……、なんでもない」
「そうですか。ならば良いのですが」
……まさか、庭先の花に見惚れていた、などとは言えようはずがない。
しかし、その花は、なぜか私の気を惹いた。
凛と美しい、純白の花。背丈が他の花より少し高めで、否応無く目立つ。……しかし、あまりに儚げで、物悲しい雰囲気を帯びている。
「さて、そろそろ行こう」
「御意」
私は家臣と共に、一旦その場を離れた。
――とうに陽は落ち、辺りはしんとした闇に包まれる。松明の灯りは持っていない。私の周囲は文字通り真っ暗だ。
手に持つものを落とさないように、ぶつけないように注意しながら、歩調を速める。
しばらく歩くと、大分暗闇に目が慣れてきた。薄ぼんやりと、辺りが見える。
その中に、見つけた。
凛と咲き誇る、純白の花を。
夜だからなのか、昼間に見たときよりも少し元気がない。
「……美しいな」
私は持参した手桶の中の水を、少しだけ掬って花にかけてやった。雫が花弁から滴って、地上に吸い込まれてゆく様を眺めていると、張り詰めていた心が少し和んだ。
「……また明日も来よう。それまで、ずっと咲き続けていてくれ」
やがて、季節は過ぎ、純白の花はいつの間にか姿を消した。