小谷の姫

□とある姫君の長女
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 朝から小谷の城は慌しかった。
 ……まあ、原因は私なのだけれど。

「お姫さま!!」
「お市さま……っ」

 私を取り囲む人々。皆一様に不安そうで、心配そうで、それでいて期待に満ちた表情をしている。――そう。私は今まさに女子(仮)を出産しようとしている状況で、それで城全体が浮き足立っている、という訳だ。

 ……とか余裕をこいている場合ではなくなってきた。部屋が暑いわけでもないのに、汗が額を伝う。一体こんなもののどこが「女の幸せ」なのかと思う。本当に。
 段々時間も分からなくなってきた。私はいつまでこんな状況に耐えねばいけないのか。と、思っていた矢先に。



「――おぎゃあ」


 聞こえた。
 子供の声が。――私と、長政様の、子供の。
 自然と、安堵の溜息が漏れる。周りの人々も、程度の差こそあれ皆ほっとした表情を浮かべている。
 子はどうかと問うた私に、八重は言った。

「お市さま……。御子は、可愛らしい女子にござりますよ。お市さまと同じ、お優しい空気を纏っております……」
 と。
 自分の顔から、笑みがこぼれるのを感じた。


 娘は白い布にくるまれ、誕生の報告を受け慌てて駆けつけた長政様の腕の中にすっぽりと納まった。
「市……。よくぞやってくれたぞ。そなたに似て可愛らしい女子ではないか。しばらくはよく休むがよいぞ。さて、城内の者にこの赤子を初披露目だ」
 長政様は武人らしい少しごつごつした手で私の頭をくしゃりと撫でると、娘を抱いたままゆっくりと立ち上がった。




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