小谷の姫

□とある姫君の呼名
1ページ/2ページ

「……」
「……」

 机をはさんで目の前には、長政様。
 私は相も変わらず白装束。
 何でも、祝言(結婚式)から三日はこのままらしい。
 ……というのはさておいて。


「長政様っ」
「市姫……」
 同時に名を呼び合って再びの沈黙。

「あの、長政様」
 とりあえず、気まずくて私から話題を切り出す。
「何だ、市姫」
「とりあえず……、その呼び方を止めて頂けませんか?」
「……何故だ?」

 何故と問われても。
 特に理由はない。
 ただ、目の前の相手は仮にも自分の旦那なのである。旦那に姫なんて呼ばれるのはくすぐったい。

「兄者に気を遣われて居られるのでしたら、兄者はもう近江の地には居りませんし、それに私達は仮にも夫婦めおとでしょう」
「そうか。……」

 長政様は少し悩んでいるようだ。
 そしてしばらくして、「……市?」と呟いた。
「長政様……」
「よし、決めた。市……そう呼ぼう」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ