小谷の姫

□とある姫君と城下
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今日は、“お忍び”で城下に出掛ける事になっている。
 長政様に頼んだら「城に閉じこもってばかりでは息苦しいだろう」と、あっさり快諾してくださったのだ。
 だからと言って、「姫」として出掛けるのでは、息苦しさは変わらない。
 だから、“お忍び”。

 お供をしてくれるのは、近江に来てから私に仕えてくれるようになった、侍女のおせん。


「おせん、行きましょう」
 いつもと違う、商人の娘が着るような服を身に纏って、後ろに控えるおせんに声を掛ける。
「はい、お姫(ひい)様」 彼女は微笑んで、私の傍らまで進み出る。

「まさかお姫様と城下に出掛ける日が来るなんて……夢のようでございます」
「そんな大げさな……。ところでおせん?」
「はい?」
 私は悪戯っぽく微笑み、「城下に出るときの約束は?」と訊ねた。
「あっ……。――市、様?」
 戸惑って答えるお泉に、私は首を横に振ってみせる。
「違うでしょ?」

「――お、いち……?」
「よし、良く出来ました」
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