小谷の姫

□とある姫君と側室
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「……なたは……なの?」
 今にも消えてしまいそうなほど、か細い少女の声。

「……誰?」
「……なたは……なの?」

 私の問いには答えず、同じ言葉を繰り返す少女。
 どこか儚くて、切なげな少女の声は薄れ、やがて消えた。



「……夢?」
 目が覚めると、そこはいつもの私の部屋、勿論少女など居る筈がない。
 日課である、兄者から頂いた愛染明王へのお祈りをして、私は廊下に控えているであろうおせんを呼ぶ。

「おせん」

 ……が。

 いつもならすぐに、襖が開いて彼女が入ってくる筈なのに、今日に限って入って来ない。
 不思議に思って自分で襖を開けるけど、外には誰も居なかった。

「……?」
 数秒考えて、そういえば昨夜は長政様と新しい側室との祝言が行われたのだっけ、思い出す。
 という事は、小谷城にもう八重も居るのかな、などと考えていると、バタバタと誰かが廊下を駆けてくる音が聞こえた。
「!?」
「お姫様、申し訳ございません!!少々殿様から呼び出されておりまして……」
 足音の正体はおせんだった。
「大丈夫よ。色々と忙しかったのでしょう?」
「……申し訳ございません。それで、お姫様」
 おせんが真面目な顔になって言った。
「何?」
「殿様が、早急にお姫様を呼んで来て欲しいと……!!」
「……?分かったわ」
 私は急いで支度をして、長政様の許へと向かった。
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