小谷の姫

□とある姫君と和解
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「貴女は、長政様の何なの?」
「そ……それはっ!!私は長政様の……」
 そこまで言って、言葉に詰まる。私は長政様の……何?
「……私は貴女を認めません。長政様の傍でずっと長政様をお助け出来るのは、同じ空気を持つ私……。違う空気を纏う貴女が、長政様のお傍に居て良いはずがありません……」
 失礼します、と言って八重は席を立ち、そのまま部屋を後にした。

「八重……」
 一人きりになった部屋。重たい空気が、重圧となってのしかかる。
 今まで考えた事も無かった。私が長政様にとって一体何なのか。政略結婚で嫁いで来た織田の姫?継室?それとも……。
 いやいや、と頭を振る。私は長政様の妻。それ以外の何者でもないはず。それなのに……、彼女に向かってそれが堂々と言えないなんて。何故、どうして?
 確かに八重は、生まれも育ちもこの時代。私とは、きっと存在そのものが違うのだろう。私はこの時代から見て未来から来たから、いつかは元の時代に帰らなくてはいけないのかもしれない。そう考えれば、八重の方が確かに、長政様の妻としては適任だろう。
 だけど……、多分、それとこれとは話が違う気がする。
 それに、どうしても八重の言葉に違和感を感じる。いや、違和感と言うと語弊があるかもしれないけれど、何か違う気がする。
「――確認しなきゃ」
 私はそう呟いて立ち上がる。

「お姫様、その」
 その時、おせんが部屋へ帰ってきた。
「おせん……、丁度良い所に来ましたね。私を、八重の部屋まで案内してください」
「八重様のお部屋へ?」
「ええ。彼女に……少し聞きたいことがあるの」

 おせんに連れられて、私は城の、足を踏み入れた事の無い一角に来た。
「……こちらです」
 彼女はとある部屋の前で立ち止まる。
「ありがとう、下がっていいわ」
 私は彼女を下がらせ、一人で襖の前に立った。
 大きく一つ深呼吸。そして表情を引き締める。実際は、緊張と不安でそんなに引き締まってないと思うけど。



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