静寂を破る禍の音 2
「さて……、と」
その女は妖艶に微笑んだ。
「そろそろ、かしら?」
「そうだね、今頃青の隊が、魔研を足止めしているだろうね。まあ……、彼がこちらの本当の狙いに気付いているとは思えないけど」
答えるのは、女と大して歳の変わらない男。
「あの男は……、私の全てを奪ったのよ。だから私も……、全てを奪ってやるわ」
「全て、かい?」
男は怪訝そうに訊ねる。
「そうね、全てといえば嘘になる。でも……、同じようなものだわ」
女の憎悪に満ちた瞳を見て、男は彼女の決意が数年前のあの日から、一切揺るいでいない事を知る。
「君は……、変わっていない、本当に」
「そう言ってくれるのもあんただけよ」
だって、昔の私を知るのはあんただけだもの、と女の声は続いた。
「……いつまで過去に囚われる気だい」
「復讐が終わるまで、いつまでも。私を動かすものは、全てその過去だけだもの」
男は何か言おうとして、止めた。
代わりに、その時が来たのを告げる。
「……さあ、そろそろ時間だよ」
「そう。……行きましょう」
女は応じて、ふっと微笑んだ。