小谷の姫

□とある少女の決断
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 ……はい?



「すみません、良く聞き取れませんでした。もう一度仰って頂けませんか?」
 やたらと早口で告げる兄者に、小首を傾げて訊き返す。
「……淺井長政と、結婚しないか」
 今度は、やたらとゆっくり、まるで自分に言い聞かせる様に、兄者は呟いた。――て、……けっ、こん?

 要するに、早く嫁に貰われろ、と。

「淺井とは……、同盟を結んだ、あの淺井ですか?」
 他に言う言葉が思いつかずに、取り敢えず尋ねる。
「そうだ。淺井長政といえば、将としての評判も良く、見てくれもそれなりに良い。お前の相手としては最適だと思うのだが……。後は市、お前の意志次第だ」
 書類をパサリと畳の上に置き、真剣な眼差しで見つめられる。

 ……しかし、結婚と来ましたか。未来の日本では、二十歳といえばまだ、やっと成人ですよ、兄者。結婚なんて先のお話です。
 なんて、言えない。大体、元の時代の常識が戦国で通じないという事は、もう嫌と言う程思い知らされた。
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