小谷の姫

□とある少女の不安
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「あの時はほんの余興だったが……。なに、今では見捨てずにいて良かったとおもっておるぞ。が、妹という立場上、他の男に取られるというのは少々口惜しいがな」
 浅井の大将も幸せ者だ、と言って笑う兄者の表情は、限りなく明るかったけど、どこか少し寂しげだった。

「兄者――っ。……」

 だから、せめて心配を掛けぬように……。

「……安心してくださいまし、兄者。私達は兄妹。誰にもこの絆、裂かせは致しませぬ」

 少し心配だけど、不安が無いって言ったら嘘だけど、寂しくないわけがないけど、笑っていよう。
 上手く、笑えているかな、私……。

 ……大丈夫。

 そう自分に言い聞かせる。

 だって……――。兄者は、天下統一を目指すようなお人だもん。
 きっと私の心の内なんて、隠し通せない。
 だったらせめて、強く在りたい。


――私は市。織田信長の、妹……。
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