SS2

□色づき始める
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世界は白黒だった。
同じ日々。同じ毎日。変化の無いこの世界。だいきらいだった。
家がきらいだった。学校がきらいだった。世界がだいきらいだった。
両親に愛して欲しかった。だからいい子でいようと頑張った。だけどどんなに頑張っても両親が見てくれることは無かった。もっともっと大切なものがあの人たちにはあったから。
褒められたいと思った。今まで以上に努力した。頑張って頑張って頑張った。本当に褒めて欲しい人は褒めてはくれなかったけれど、違う人が褒めてくれた。たくさん、たくさん。
秀才だ天才だと褒め称えられても嬉しくなかった。いや、嬉しかったかもしれない。だけど心は満たされなかった。

だって俺は。両親に褒めて欲しかった。その大きな掌で頭を撫でて欲しかった。


「お前の両親は何してる人なんだ?」
「さあ。あまり顔を合せなかったから…詳しく両親を知らないんだ」


涯くんはそうかと気まずそうに視線を逸らした。
つまらない過去を頷いて聞いてくれる君は本当に優しいね。いいかな、もう少しだけ付き合ってくれないか?


「ああ、悪い。続けろ」
「うん」


自己主張の無い世界が。他人に気を使って自分を押し殺したつまらない世界が。だいきらいだった。
自分の色を持っていない人間ばかり。そんな世界を美しいと思えるはずが無かった。
作り笑いと上辺だけの人間関係。愛想よく適当な相槌を打つ世の中。
世界は醜いし、人間はもっと醜い。俺も醜い。
人はいまもどこかで死んでいて、どこかで生まれている。減り続け、その倍増え続ける。世界は腐敗していると言うのに。
馬鹿と馬鹿の間には馬鹿な子しか生まれない。子供と子供の間には馬鹿な子供しか生まれない。なんて世界は汚いんだろう。

そんな中で、君に出会った。


「涯くんはあったかくて、涯くんだけの色を持ってて、穢れがなかった。涯くんは他と比べ物にならないくらい綺麗だった」


だから俺は涯くんがだいすき。
世界はだいきらいだけど、この世界にある君のだいすきなものは俺もすきになれるんだ。君がすきというものは皆、きっと俺のすきに変わる。
繰り返される「おはよう」がすきになる。君に呼ばれる自分の名前をすきになる。全部全部すきになれると思うんだ。
でもね涯くん。俺は涯くんしかいらない。他には何もいらない。すきになれるけど愛せるのは涯くんだけ。だいすきなんだよ涯くんのことが。すごくすごく。


「涯くんは俺のことすき?」
「嫌いじゃ、ない」
「…ふふっ」


それでもいいよ。
嫌いだなんて言われたら俺はもっと自分を嫌いになる。もっともっと嫌いになって世界を憎んで憎んで二度とすきになれるかもしれないなんて考えない。嫌いなんて言われるよりも全然ましだ。
涯くん、ありがとう。俺はやっぱり涯くんがすきです。だから涯くんもいつか俺のこともすきになってね。


「きっとその時は俺も色を持ってるはずだから」


今までは両親の愛情のために。これからは君の愛情のために。
頑張るよ。俺、すっごく頑張る。だから涯くん、待ってて。
今は君に頭を撫でてほしいんだ。色鮮やかなその世界の中で。






(ああ、待ってる)



(110801)

一目惚れしたよって話。それにしてもこの涯くん超穏やか。宇海さんはいつも通りですね。




 

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