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□ぎゅーして、ちゅーして、
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静まり返った室内(涯くんの部屋)に俺と涯くんは2人きり。だけど涯くんは俺を見もしない。


「ねぇ涯くん」
「ん」
「俺暇なんだけど」
「ん」
「聞いてる?」
「ん」
「涯くんったら…!」


バンッ!とミニテーブルを叩いて、俺は立ち上がった。
それに吃驚したのか、涯くんがやっと俺を見た。
今までテスト勉強だかなんだか知らないけど、ずっとシャープペンシル片手にノートと睨めっこしててさ。俺放置で。酷くない?いい加減俺も怒っちゃうぞ。


「暇だって言ってるじゃんか」
「俺は勉強してるだろ」
「勉強なんていつもしないじゃないかっ!」
「…でも今はしてる」
「…」
「邪魔すんな」


そう言って、涯くんは睨めっこ再開。やっぱり俺放置。


「…」


いつもならしつこく絡むけど、今日は良いよ。なんかもう面倒臭い。なんか俺ばっかり好きみたいで。


「(ムカつく…)」


俺は涯くんを見下ろしているのをやめて、玄関に向かった。


「宇海?」
「帰る」
「は?」
「涯くん忙しそうだし、帰るね!」


顔だけ涯くんに向けて、にっこり笑った。
それが作り笑いか本当の笑顔かは自分でもよく分からない。そのくらい考えるのが面倒臭かった。
早足で玄関へ向かう。


「ちょっ…行くなっ…!」


嬉しいことに、涯くんが俺を引き止めてくれた。俺の腕を強く掴んで。だけどね、もう良いんだよ。


「…でも涯くん勉強してるし俺邪魔になるじゃないか」
「…邪魔じゃない、から」
「嬉しいけど俺がさびしいしさ。涯くん構ってくれないだろ」
「で…でも勉強はしないとダメだから…」
「……」
「けど宇海にはそばにいてほしい…」
「(何これ萌える)」


涯くんに向き合って、微笑んだ。
ああ、可愛いな。照れて目を逸らす所も可愛いしちょっと頬を赤く染める所も可愛い。


「じゃあさ、涯くん」
「ん…」
「俺がさびしくならないように…」


俺は両腕を広げた。


「涯くん、」



ぎゅーして、ちゅーして、
(その先もしてよ)(…ぎゅーはしてやる)(えーっ!)

ま、抱きしめてくれたし許してあげようか!


     * * *
私の中の涯くんはツンデレで、この涯くんは珍しくデレてます。…と言いたいんですが。
ところがどっこい…!!涯くんデレてません。涯くんが零を引きとめたのは勉強を教えてもらうためです。
でもきっと零は「涯くんがデレた!!ちょ、やっべえ萌える涯くんもっかい!!もっかいデレて!!ムービー撮るからさ!!!」とかそんな感じで1人で盛り上がってますよ。

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