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□いい夢を!
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ふと時計に目を向ければ、針は12時近くを指していた。夜の12時。子供はとっくに眠っている時間。
俺は受話器の向こうでぺらぺら話しているあいつに一言言った。



「宇海、もう12時回るぞ」
『えっ?ああうんそうだね!でも俺許せなくってさ!なんでしげるなんかが!』
「…分かったから今日はもう寝ろよ」
『えー!なんで!?あ、涯くん眠い?それなら、』



もう切る!と言うのかと思ったら。



『寝ぼけた涯くんの声が聴けたってことかな!』
「切るぞ」
『わ!ちょちょちょ、待ってよ!』



なんで宇海はいつでもどこでもテンションが高いのだろうか。不思議すぎる謎。やっぱり頭の良い奴はよく分からない。
宇海の場合、確か寝起きは悪かったが、しばらくすれば何のスイッチが入るのかいつものテンションになるし。いっその事ずっと寝起きのままでいい。うざい。



『もうちょっと駄目?』
「眠い」
『えー…』



真剣に残念がる宇海。受話器越しでもそれはなんとなく感じられる。



「どうせ明日も俺ん家に来るんだろ?」
『えへへ』
「なら別にいいだろ。話なら明日でも聞けるし」
『んーまあそうなんだけどさ』



宇海は何やら口ごもる。俺は筋トレとか朝食の準備とかで朝は早いし、さっさと寝たいんだが。
痺れを切らして聞いてみる。



「何が言いたい?」
『…最初から最後まで涯くんと話したいから』
「…は」
『えー、だから…』



朝は涯くんのおはようから始まって、夜は涯くんのおやすみで終わりたいんだよ…!



「…あのな宇海。俺はお前の彼氏じゃないんだぞ」
『でも恋人だろ?じゃあ彼女?』
「何でだよ死ねよ」
『だから俺、涯くんがおやすみって言ってくれたら寝る』



改めてそんな事を言われると、若干俺は照れる。こいつはそれをよく分かっているはずなのに「言ってよ!おやすみって!」と急かしてくる。
受話器を握る手に力を込めて、



「ばーか」
『えっ!?ちょ、涯くんひど…っ』
「…おやすみ」



自分でも聞き取れるか分かんない位、小さな声で言った。
けれど宇海の耳は予想以上に良かったみたいで、嬉しそうに「ありがとう…!」と返された。



『涯くんのおやすみも聴けたし、寝るね!』
「ああ」
『じゃあね涯くん、』




いい夢を!
通話時間は愛の証、君となら何時間でも話していたいな!





     * * *

宇海さんはその辺の女子より女の子らしい事を言うに違いない。
電話って便利ですよねー。離れてても話せるんだから。
宇海さんなら「離れてたって心は涯くんのそばにずっといるよ!」とか言うのかな。何それ怖い。



 

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