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□その1分が命取り
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俺の朝は割りと早い。仕事に行くときも行かないときも早く起きる。早く起きて、するべきことをする。家事とか、仕事探しとか、な。
朝食は基本和食を食べる。パンでもいいんだが、なんとなく食べた気がしないし。ちゃんと飯を炊いて味噌汁を作って、簡単なおかずを作る。…大体は前日の夕飯の残りだけど。
それから一応掃除も毎日してる。目に付いたところを綺麗にしてるつもり。清潔にしてた方が気持ち良いしな。

だからそんな俺、伊藤開司の朝は忙しいのだ。

それを分かってるくせにこいつは何分トイレに篭るつもりだ?



「おい、しげる!早く出ろ!痞えてんだよ!」
『まだだ…』
「そう言ってもう5分だろうが!仕事があんだよ、早く出ろ!」
『ククク…』



1人暮らしの家にトイレは2つもいらない。当然、俺の家のトイレは1つだけだ。しげると共有することになってから、順番に使うことにしたが。

何こいつ!仕事だっつってんだろ!

全然出てきてくれない現実にイライラを募らせながら、俺はトイレの扉をどんどんと力強く叩いた。



「しげる!頼むから!漏れそうなんだっ…!」
『…はー、仕方ないな…』
「しげ…」

『勝負して俺に勝ったらここ出てあげてもいいよ』

「しげる…!!」



怒るより脱力。



「なんなんだよ今日はどうしたんだお前…」
『別に…』
「前も遅刻して店長に怒られたばっかりなんだよ、まじで頼むって…」
『………』



がちゃり。
鍵の開く音。すぐに扉も開いて、しげるが顔を覗かせた。



「しげる…」
「すいません。ちょっとさびしかったんです」
「え」
「昨日も一昨日も仕事だったでしょ、俺ずっと1人だったから」
「あ…あぁ!大丈夫だよ、今日行ったらしばらくシフト入ってねぇし…」
「本当ですか…?」
「ああ…だから、」



早くそこをどいてくれ…っ!!!



「時間がねぇんだよ!」



しげるを退かしてトイレに駆け込んだ俺。
扉を閉めると、扉の向こうでしげるが呆れた声で言った。



『カイジさん…今のはムードぶち壊しだと思うんだけど…』
「うるせぇ!」



言っただろうが!俺の朝は早いんだ!フリーターだからってなめんなよ…!


ああ、しあわせ。




その1分が命取り
(じゃあ行ってくるな!)(カイジさん鞄忘れてる)(ああっ…遅刻する!)




     * * *


しげるの朝は遅いと思う。低血圧だったら可愛いな。寝起きはぼーっとしてるんだぜ。それか機嫌悪いんだよきっと。可愛い。




 

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