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□バニラアイスクリーム
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目の前には目を輝かせて俺を見ているしげる。
手の中にはバニラ味のアイスキャンディーが。
「ほら早くカイジさん…溶けちゃうよ」
「やっ…やってられっか…!」
しげるが俺に望んでること。それは、
「バニラのアイスキャンディーをいやらしく舐めて」
…思春期の男って怖い。
ことの始まりは、2人麻雀だった。物の少ないこの家にもまだ牌が残ってて、しげるが「やろう」って言ったのがきっかけ。
最初はまあ普通に打ってたんだが、しげるが勝ち、しげるが勝ち、しげるが勝ち…だんだん変わり映えしない勝負に嫌気がさしたらしく。
「カイジさん、賭け麻雀にしよう」
「あ?」
「このままやってても埒が明かない。俺の1人勝ちじゃつまらない…」
「ぐ…!おっ…お前が強すぎるんだっつの…っ!」
「カイジさんは追いやられて覚醒する人だしさ。次から負けたら罰ゲームね」
「はぁ!?」
どっちかっつーと、俺も負けず嫌いな方だし。その話に乗ってしまった。乗らざるを得なかった。
ギリギリまで良かったんだがやはり格の違いってやつ?13歳という子供に俺はずたぼろにされた。
やっぱりあの時止めておけばよかった…!
若干涙目になりながらも、俺はアイスキャンディーを口にした。
じゅる。
「(うおっ!垂れる…垂れる…!)」
じゅるる。
こぼさないようにしていると、どうしてもしげるの思惑通りに行ってしまう。
くそぉ…っ!
どうしたらいいのか懸命に考え抜いた結果。
「っ」
「あ」
しゃくしゃくしゃく。
一気に噛み砕きました。うん、美味い。普通に。
そしてそれを見ていたしげるは無表情で俺を見ていた。
「(おおお怒ってる…!)」
まさに俺がくぶる状態。がくがくぶるぶる。超怖い。さすが後に神域の男と呼ばれるだけあるな。怖ぇよ母ちゃん…!
アイスの棒を咥えてしげるの表情をうかがっていると、しげるははあっと溜息を吐いた。
「カイジさん俺の言ったこと覚えてる?」
「お、おう…」
「俺はさ、“バニラアイスキャンディーを舐めるカイジさん”がみたかったんだよ」
「う…」
「“バニラアイスキャンディーを食べるカイジさん”じゃなくてね…」
しげるは立ち上がって台所へ向かい、しばらくしたら戻ってきた。
…手にバニラアイスキャンディーを握って。
そしてそれを俺に差し出して、笑顔で一言呟いた。
「倍プッシュだ…!」
終わらない罰ゲーム。そして始まりに戻るんだ。
バニラアイスクリーム
(っていうかなんでバニラ?)(だって似てるじゃない)(何とだよ…?)(何って…せい)(ああ言わなくていい!)
思春期って怖い!
(20100412)
ほらやっぱり13歳だしね!女の子も気になるけどやっぱりカイジさんが気になるお年頃。あれれ。