SS2

□心ここに在らず
1ページ/1ページ






どんよりとした空気が漂う。開いた扉から光が漏れる。それがこの部屋の唯一の光であり、それ以外は光ない一切の闇だった。
分かるのは、コンクリートに包まれた部屋であると言う事。自分は首と両手足が鎖で繋がれていると言う事。自分を拘束しているのは、



「おはよう涯くん」


誰でもない…宇海零であると言う事。
病んだ瞳が俺を映し出す。笑顔で俺の前に跪き、俺の頬に手を添える宇海。


「何のつもりだ…」
「涯くんが逃げないように」
「俺は…逃げない…!」
「涯くんを失わないように」
「俺はお前のそばを離れない…!」


その言葉を聞いてからか、宇海はにっこりと笑った。そして添えてた手で大きく振りかぶり、俺を思い切り殴った。


「ぐ…!」
「誰にでもそんなこと言ってるんだろ」
「んなわけないだろっ…」
「本当に?」
「本当だ!」
「じゃあ涯くんの身体を俺に頂戴?」
「…は…?」


今度は両手を俺の頬に添える。未だ変わらぬその笑顔が、段々と俺を恐怖に落としていく。


「涯くんの心は我慢するよ」
「何を、言って」
「その代わり涯くんの身体全部俺に頂戴?」
「何を言ってるんだ…宇海!」


うふふ、と笑って俺を抱き締める。
今初めて見えた刃物。それは俺がよく知り得ているもの。


「それで俺を殺す気か…?」
「殺さないよ?ばらばらにするだけ」


後ろに転がっている斧を右手に取って、それを見つめる宇海。うっとりとした瞳で話し出す。


「手も足も指も皆ばらばらにしてビンに入れておくんだ。もちろん中のも全部。素敵だろ?俺と涯くんはずうっと一緒にいられる」


またうふふ、と笑う。そして笑顔で俺を見る。


「涯くん、どこからばらして欲しい?」
「ふざけるな…!」
「ああ、安心して。なるべく痛くないようにするから」
「っ零…!」
「…大好きな涯くんの為なんだぜ?」


理解出来ない。理解し難い。理解したくない。
俺の為?何を言ってるんだこいつは。
先程とは違うが、また振りかぶり。それはざくりと俺の右足に。あああああ。


「てっ…め…!」
「いいね、その表情」
「ふざ、けるな…!!」


痛みが回る。痛みが麻痺する。感覚が麻痺していく。


「涯くんの全部を俺に頂戴。誰にも見せたくない渡したくない。な、涯くんいいだろ…?」


刺さったままの斧をぐずぐずと握り直し、また大きく振りかぶる。
今度はどこを痛めつけられるのか、と言う恐怖。それと今度こそ俺は死ぬのだろうか、と言う恐怖。
2つの恐怖からか、俺は今更がたがたと震えだした。そんな俺を見て、宇海はにこりと微笑んだ。


「大好きだよ涯くん…!」


いつもと変わらないその笑顔。変わらないその声に、俺は鼻で笑っていつもと変わらないその言葉を返した。


「俺は大嫌いだ馬鹿宇海…!」


ああ、俺はとうとう死ぬのか。こいつに殺されるのか。

思った瞬間、激痛が身体中を走った。







(身体はくれてやるが心は渡さないぞ馬鹿宇海…!)(わぁい涯くんの腕だぁ…!)

ああ…さよなら俺の身体…!







(20100605)


なんか零が分かんない。最後の方、本当はもっと発狂してたんだけどさすがに自重してこうなった。自重出来てない?てへりんこ!
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ