SS2

□疑問解明
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空はなんだか濁った灰色をしていて、ああ自分の心みたいだなと思った。
俺は苛々していた。虚無。なぜだかむなしい。自分の心を満たすものはなんだっけか。
“宇海零”と言う人間をほんの少しでも知っている人間ならば、迷わず工藤涯だろうと答えるだろう。間違ってはいない。しかしながら俺はその事実にさえも苛々していた。


「(涯くんのことは大好きだけれど、)」


もしも手に入れたところで結局は涯くんもどこか別の何かを望んでいる。
どうにも出来ない現実。
もっと自分に魅力があれば。もっと自分に力があれば。どうにかなっていただろうか。
涯くんは俺を見てくれただろうか。


「(だけど最近の涯くんはむかつく)」


大好きな涯くんは俺のことが大嫌い。だって俺を見てくれない。
どうして俺を見てくれない?どうして俺を好きになってくれない?
じとじとした空気は宇海零を余計苛立たせる。
無駄な知識は持ち合わせていても、愛する人の考えていることは何一つ分からない。何も意味が無い。自分にも苛立つ。

どうすればいいの。どうしたらいいの。

もう分からない。だから、ねえ涯くん。


「教えてよ…!」
「っ…宇海」


早足で涯くんの家に来て、挨拶を交わす前に俺は涯くんの脚に縋り付いた。涯くんは最初だけ驚いたが俺を見ていつもの無愛想な表情に戻った。
俺の目から自然と溢れ出す大量の涙。


「どうしたら涯くんは俺を好きになってくれるの?どうしたら涯くんは俺のものになってくれるんだよ?教えて涯くん…」
「宇海俺は」
「涯くんがわかんないよ俺…こんなの初めてだからどうすればいいのか…教えてよぉ…」
「聞け馬鹿宇海」


涯くんは優しいから教えてくれるだろ?どうしたらいいんだよ涯くん。俺はどうしたらいい?どうしたら俺の心は満たされるの?
ただただ言葉をぶつけていたら、殴られた。
あえて言葉で表すならポカ、と殴られた。それはもう軽く。子供を叱るみたいに優しく俺を殴った。
顔を上げてみれば、涯くんが照れた表情で俺を見てた。


「俺はお前が好きだ」
「…え、」
「だからそんな考え込まなくてもいい」


ちゃんとお前のこと好きだから。

そう言って、目を逸らした涯くんの口から「馬鹿」と言う言葉が漏れる。
ああ、涯くん。ますます俺は君が分からないよ。
心の中のどす黒いこの気持ちも、醜く汚らわしいこの気持ちも、涯くん分かっていないだろ?

俺の好きと涯くんの好きは結局違うものなんだろう?

涯くんの気持ちを聞けば聞くほど、分からなくなった。ならどうしていつも冷たいんだよ。ならどうして俺以外の人間と親しげに話してるんだよ。ならどうして俺はこんなに空っぽなんだ!


「宇海、また馬鹿なこと考えてるだろ」
「…考えてない」
「嘘ばっかり。分かりやすいなお前」
「考えてない!」


呆れながら、涯くんは俺に聞いた。


「ならお前は俺にどうしてほしいんだ?」
「え?」
「どうしたらお前は満足するんだよ」
「どうって…そりゃ…」
「………」


分からない。それさえも分からない。
涯くんにそばにいて欲しい。涯くんに愛を囁いて欲しい。涯くんに俺だけを見ていて欲しい。
だけど、それは俺のわがままだ。
涯くんは決して俺だけのものじゃない。涯くんは涯くん自身のもの。
だからそれは叶うはずがない。叶ってはいけない。

それなら俺はどうして欲しい?

涯くんは屈んで俺と同じ目線に立った。


「宇海は俺にどうして欲しいんだ?」


もう1度、同じように涯くんは俺に問うた。


「俺は…」


分からないなら考えろ。


「涯くんに俺を好きでいて欲しい…」


自分でも聞き取れるか分からないくらい小さな声でそう呟いた俺の本音。
涯くんはそれをしっかりと耳にしたようで、また微笑んだ。

こんな簡単なことだったんだな。俺は別に特別なことを望んでいたわけではなかった。
ただ涯くんに嫌われたくなかっただけなんだ。

涯くんは立ち上がって、「今日も夕飯食べてくのか?」と聞きながら台所へ歩き出した。
俺のすぐに立ち上がってその後を追う。そして思い切り笑顔で頷いた。


「うん!」


あーすっきりした!





(夕飯何がいい?)(涯くん俺ね、涯くんを食べたいな!)(嫌いになるぞ馬鹿宇海)(それは嫌だ!)




(100726)

ひたすらネガティブな宇海さん。ネタを思いついたのは梅雨の頃。梅雨はネガティブになるよね!









 

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