SS2

□皆で海へ行こう!
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5人を乗せた車は海へ走っていた。


「暑い、だるい、…帰りたい」
「カイジさんうるさいよいい加減諦めて」
「そうだよ、せっかくアカギさんが海に連れてってくれるって言ってくれてるんだし」
「…零、お前は涯と出かけられるのが嬉しいだけだろ」
「あ、ばれた?」
「………」


狭い車内に5人がぎゅうぎゅうで乗っていて、カイジの気分は最悪だった。
密度の高い車の中は当然蒸し暑いし、子供と密着していると言っても涯としげるの身体は成長期真っ盛りな為、それなりにカイジにダメージを与えていた。
かれこれ2時間ずっと同じ状態。カイジの身体は悲鳴を上げていて、とうとうその悲痛を口に出したがブーイングの嵐。

気分は右下がり。

アカギは無表情で車を運転し、零は楽しそうに助手席に座っている。しげると涯はカイジにもたれかかって眠っていた。
少しでも体制を変えれば、2人の頭がずり落ちる。カイジはまた溜め息を1つ漏らした。


「アカギ…まだなのか」
「ん、もうちょっと」
「それさっきも言ってたじゃねぇか…」


うなだれる。
すると、零が後頭部座席に顔を向けて言った。


「それにしてもカイジさん羨ましいな、涯くんにもたれかかられて…いいなあ羨ましいなあ」
「うるせぇ馬鹿じゃあ変われ」
「カイジさん馬鹿ですか?こんな狭い車の中を行き来できるわけがない。まあ涯くんのためなら俺は何でもできるけど」
「じゃあやれよ」
「何言ってるんだ、涯くんが起きるだろ…!」


ぎっと睨まれるカイジ。先程までは我慢していたが、とうとう苛々しだした。
寝ていたところを勝手に起こされ車に押し込まれ…人はこれを拉致と呼ぶ。
特別用事があったわけじゃなかったから、黙っていたが、もともとカイジにメリットがあるわけじゃない。


「(海…?暑いだけじゃねぇかっ…!カップルやら家族やら人も馬鹿みたいに多いし…家で寝ていた方がはるかにましっ…!)」


大きく溜め息をついた瞬間。


「カイジさん、見えましたよ」


アカギのフフ…っと笑う声がカイジの耳に聞こえた。
言われるがまま窓の外を見るカイジ。すると、きらきら光る大海原がカイジの目に入った。
ここ何年か見ていなかった海はやけに新鮮で、懐かしい少年心をくすぐり、カイジの胸は予想外に躍っていた。
瞳を輝かせて外を見つめるカイジと零。零は先程言ってたことなど関係なく、涯に向かって大声を張り上げた。


「涯くん涯くん!海だぜ海!もう着くから起きて!」
「…う…?」


閉じていた瞼を開いて外を見る涯。眠たげだった表情が笑顔に変わった。
同じように零の大声が耳に入ったしげるはと言うと。


「…るさいな」
「お…」
「静かにしてよカイジさん」
「え、俺!?」


ご機嫌斜めでカイジに八つ当たり。
アカギの口角がにっとつりあがる。


「どう?カイジさん、綺麗でしょ」
「あ?ああ…うん」
「降りたら2人で浜辺でも歩こうね」
「はっ!?」
「………」


その乙女思考はどこから来たものか。カイジは顔を赤くした。
それを聞いていたしげるの眉がぴくりと動く。そしてカイジの腕に絡まりついた。


「何言ってんのカイジさんは俺と歩くんだよ」
「え、ちょ、しげる?」


ルームミラーでしげるとアカギがにらみ合う。カイジにはなぜだか火花が散っているように見えた。


「お子様は海で浮かんでろよ」
「あんたこそその白い肌でも焼いてればいいんじゃない?」
「くく…それはてめぇもだろ…!」
「こうなったら勝負しかないっ…」
「勝負に勝ったらカイジさんを1人占め…!」

「…俺の権限は?」


カイジは引きつった笑顔で誰に問うわけでもなくそう聞いた。
見ていた零が笑いながらカイジに言った。


「カイジさんモテモテですね!でも涯くんは俺と海で遊ぶもんなっ」
「え、俺1人のが…」
「ダメっ…海で孤立したら迷子と勘違いされるよ…!」
「そっそんなわけないだろ…!」


顔を赤らめる涯はしげると比べてなんて子供らしいことか。カイジの心は少しだけ和んだ。
気がついたらさっきまで静かだった車の中は、いつのまにかにぎやかになっていた。
海につくまで、もう少し。アカギはスピードを上げた。






(誰もいない…)(アカギさんすごい!適当に進んだら誰もいない海岸に着きましたよ!)(じゃあ勝負しようかアカギ…!)(いいよ、勝負しようか…!)(うおおっ!海だ、綺麗だなー!)


母なる海はなんて美しいんでしょうか…!





(10.08.13)

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