SS2

□Re:
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携帯電話の画面を見せて、いきなり宇海は言った。


「涯くんってメールのタイトルの“Re:”って消さないよな!」
「は?」


なんだそんなことか、と読んでいた本に目を戻す。宇海は頬を膨らませた。
言っておくが宇海。可愛らしい女子が頬を膨らませればそれなりに可愛いんだろうが、お前が膨らませても全く心ときめかん。むしろなんかイラッとするぞ。
心の中で言った。実際に口に出せばうるさい…、


「涯くんひどいや」
「心の中の言葉を読み取るな…!」


うるさくは無かったがなんだか寒気がした。
もう天才とかじゃなくてエスパーじゃないのか…?
最近宇海の存在自体疑問に思えてきた。


「………」
「涯くんだからこそだよ、つまりは愛だよ、ね!」
「ねって言われても…」


身を引きながら言う。宇海が「引かないで!」とうるさいから、仕方なくもとの位置に戻った。
宇海は携帯電話の画面をうっとりと見て言う。


「俺はあえて消さないんだけど…涯くんもそう?」
「いや、面倒くさいだけだ」
「ちょっとそうかなとも思ってたけど…」


引きつった笑顔。
だってそうだろ、メールを返すたびにタイトルまで打ち込むなんて面倒じゃないか。
これも口に出さずに心の中で思うだけ。


「でもさ、俺はこの“Re:”ってちょっと好きなんだ」
「…どうして?」
「だってそれだけメールのやり取りをしたってことだろ?」


照れくさそうに笑って、だから俺は消さないんだ、と宇海はまた笑った。
そんなこと考えたことも無くて。俺は少し考えた。


「そんなに嬉しいことか?」
「っ嬉しいよ!」


俺は思わず思ったことを口にしたが、宇海は目を丸くしながら身を乗り出して答えた。
宇海にとっても思ってもいなかったことのようだ。
むしろ涯くんは嬉しくないのか、と。信じられない、と。そう言いたげな瞳で、なんだか少しだけ気が引けた。


「受信BOXが涯くんの名前でいっぱいになることは俺にとってはすごく嬉しいこと!」
「……」
「送信BOXは俺が一方的に送ってるみたいだけど、受信BOXは違うだろ?」


ああ、俺は涯くんに愛されているんだ…!


「涯くんの名前が表示されているのを見るといつもそう思える。だから“Re:”が続けば続くほど俺は嬉しいんだっ」


携帯電話を大事そうに両手で握り締めて、また照れくさそうに笑った。
…そんなものなのか。
俺はズボンのポケットの中から「今は物騒だから」と、俺に宇海が持たせた携帯電話を取り出してしばらく見つめた。


意識なんてしてなかったけど、これからもそうしてみよう。
“Re:”を消さないだけでこいつが喜ぶのなら。


密かにそう思い、ふふっと笑って携帯電話をポケットにしまった。




Re:
(宇海…さすがにここまで大量にRe:があると気持ち悪い…)(あぁっ…消さないで!)


俺への愛を消さないで!








(100910)

たまには甘めのも書きます。…甘いですよね?
涯くんは基本的に気を使ってくれる心優しい子だと思ってます。

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